第二話 リュウコサン
体良く《ていよく》言っているが、要は物件情報を勝手に持ち出したり、傷を付けて修繕が必要になるような事にならないためのお目付け役である。
社長の意図を汲み取ってしまい、武は腹を括った。
「よろしくお願いします。」
「…ま、足引っ張んなきゃ良いよ。」
竜骨は無愛想に言うと、契約手続きをして帰って行った。
そして土曜日。
黒い大きなバッグを持った竜骨と、内覧の準備をした武は、武の車で一件目の賃貸物件へ向かっていた。
「今回のお部屋は、戸建タイプです。」
「…。一家心中でもしたの?」
戸建と聞いて、竜骨が聞き返してきた。サラリと物騒なことを言う。竜骨の言動には、どうもデレカシーと言うものがない。
「いえ。3世帯で住んでいて、お母さんが亡くなったそうです。残りの家族は引っ越しました。以来、空き家になってます。」
「…」
竜骨は答えなかった。
車内は道中無言で、気まずいなんてレベルの空気ではない。
「ここです。」
長い体感時間をかけて、件の賃貸物件に到着した。
古いが、2階建てでそれなりに大きい。1階にはシャッターが降りているが、カーテンの外された2階の窓からは室内が見えた。
「鍵開けますね。」
武は鍵穴に鍵を差し込んで、玄関ドアを開ける。
中は敷石タイルと靴棚と言う古い印象の玄関が出迎える。
「…」
竜骨は廊下の奥を一瞥するが、すぐに武が出したスリッパに足を突っ込んだ。
「並木サンさぁ、怖かったら外で待ってても良いよ。」