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猫の家

ガン!!


衝撃と共に、加織の体が宙を回転した。

加織は住宅街を抜け、いつの間にか車道に飛び出していた。


ついでガチン!!と硬い物を地面に打ち付けた音がして、視界が崩れて歪んだ。


その音がアスファルトに強かに頭を打ち付けた音だと加織が理解することはなかった。


アスファルトに血が滴り、流れて黒く広がって行く。


(どうして……私のせいじゃ………)


"そうだ。お前のせいじゃない。"


(……)


加織の意識に語り掛けるように幾つもの声が重なった声が響く。


"お前は辛かったんだ"

"お前は苦しんでいた"

"悲しんでいた"


"お前は救われるべきだった"


"お前に理解者がいたならば"

"お前を守る者のがいたならば"

"お前を止める者がいたならば"

"お前は私たちを殺さなかったかもしれない"

"私たちは"

"こんな風にならなかったかもしれない"


(……)


加織はもう何も考えられないが、心にその声がじわりと染みる。重く固く積もった泥を水がゆっくり染みて溶かし崩すように。

自然と溢れた涙が頬を伝い、冷たく筋を作る。


ぼやけた視界が灰色に覆われる。

体が蝕まれて漂う死臭が加織の周囲を取り囲む。

開いた口。牙が覗き、赤い舌が蠢く口が見えた。

冷たく湿った吐息が加織を撫でた。



"でも、やったのはお前だろう?"



嗤う声。

責める声。

冷酷で残酷な声。

加織が全てを理解して、思い知るには十分な声だった。


ヤメテ、オネガイ、ユルシテ


恐怖で涙が出た。

猫…、猫だった物が渦を巻いて固まって、大きな化け猫の形になる。

おぞましい姿を目の前に、加織は逃げることはできなかった。視界が覆われる。


"私たちはお前のせいで生まれた"

"私たちは救われない"

"私たちは消えることもできないし"

"どこへも行けない"


"お前も救われないのなら"

"お前も寄り添うものがないのなら"


"お前も一緒に私たちになろう"


ゲラゲラと嗤う異形は音もなく加織を飲み込んだ。


通報を受けた救急隊が加織を発見した時、彼女の顔を見てぎょっとした。


秋谷加織の顔は、何か恐ろしい物を見て、気が触れて絶叫した形のまま引き吊っていた。

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