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猫の家

「加織さん、今日のお昼は何?」


「……」


「加織さん?」


きつい口調で呼ばれ、加織は顔を上げた。


「…はい。」


加織が顔を上げると、姑の千鶴は露骨に呆れた顔をした。


「いーの、いーの。忙しいんでしょ?色々しなきゃだもの。加織さんには難しいわよね?」


「……すいません。」


「良いわよ。そんなに暗い顔で謝られたら虐めてるみたいじゃない。まさか虐めてるなんて思ってないでしょうね?」


「そんな事は…」


「この家に嫁いできて何年も経つって言うのに、家事しかしてないのに、加織さんてばまったく馴染まないんだもの。」


「すみません…」


「で、今日のお昼は?」


「……ヤキソバを…」


「また?年を取ったら脂っこいのはやだって言ったのに…。」


「……」


地を這う気配が見詰めてくる。

神経を苛ませる幾つもの視線。


(私のせいじゃない…。私がこんなになったのは、私をこんな風にしたこいつらのせいじゃない!!)


ザワザワザワ…

グルグルグル…

ザワザワザワ…

グルグルグル…



あーーーーーーーーっっ、うるさい!!!!



「だいたいあなた…」


加織はガシャン!と手に持った包丁ごと手を切りかけの野菜が乗った生板に叩き付けた。きゃっ、と姑が声を上げるが、加織の耳には届かない。

視線が集まってくる。

ガン、ガン、と加織は手を叩き付ける。野菜が飛び、包丁が床に落ちた。

視線に耐えきれず、加織は財布を掴むと姑に向き直った。


「……すみません、お義母さん。私、買い忘れがあって……買い物してきます。」


呼び止める声が聞こえたが、足は走り出していた。


「……見てるんじゃないわよッッ!」


お昼時でまだ明るい住宅街を、加織は血眼で駆け出した。

あんな場所に居られない。

あんな家には居られない。


「消えてよ!目障りなのよ!」


「何で!いっつも!私ばっかり!!!」


涙が溢れ、醜態も関係なく加織は喚いた。

加織が拒めば拒むほど、視線や気配が濃くなっていく。


「私のせいじゃないじゃない!私に何かする前に!あいつ等を何とかしなさいよ!!」

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