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猫の家

千絵が足台に登って洗濯機を覗き込んだ瞬間、スッと手が伸びてきて視界を覆った。

だーれだ、をされた時のような要領である。


「?…おかあさん?」


「千絵、この猫は見ちゃダメよ。」


暗い視界の中、加織の声が降ってくる。


「千絵、この猫は見ちゃダメ。いてはいけない物だから、見ちゃダメ。」


加織の声は硬い。


「おかあさん、猫いるの?」


「…いても、見ちゃいけないの。」


千絵の疑問には答えず、淡々と加織は言う。


「おとうさんやおばあちゃんにも言っちゃダメ。」


「どうして?」


「見ちゃいけない、いてはいけない物だから。…おかあさんと千絵の秘密。」


暗い視界の隙間、指の隙間から猫が千絵を見ているのが見えた。金茶色の瞳は濁っているが、訴えかけてくるような圧がある。


「わかった?」


「…うん。」


「約束よ。見ないようにして、絶対に人に言っちゃダメ。」


「…。うん。」


しかし、背中から伝わる加織の緊張と雰囲気に気圧され、千絵は目を伏せた。


それからも猫は家の中に潜んでいた。家の中で猫の鳴き声が聞こえ、時折獣臭さが漂う事があった。


千絵は加織にだけそっと耳打ちしたが、「見えないし、聞こえないふりをしなさい。」とだけ怖い目をして加織は言うだけだった。

しかし、夜中に加織が何もない廊下に小声で話し掛ける姿を千絵は見た。真っ暗な廊下にこそこそと声が響く。


「いるんでしょ!」


「出てきなさい!」


「もう一度」


「ころしてやるからっ!」


加織は手に金槌を持っていた。その視線の先には何もない空間があるだけだ。

そんな加織を、真っ暗な廊下の更に暗い部分から無数の濁った目が責めるように見ていた。

暗い場所から獲物を狙うように、気配は闇に溶けるようだが目だけは爛々と輝くのだった。


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