猫の家
「おかあさん、家の中に猫がいる。」
自分だけの快感だったはずの領域に水を刺したのは娘の千絵だった。
その言葉を聞いたとき、実際には水どころか氷を差し込まれたような思いをした。
(まさか…そんなはずない……)
ドキンドキン、心臓が固く脈打つ。
「何言ってるの千絵。家に猫なんていないでしょ?」
加織が言えば、千絵は「うん…」と考え込むように言葉を探し、やがて口を開く。
「いない…けどいるんだよ。」
ドキンドキン、心臓が痛い。
千絵の言ってる内容は言葉だけ聞けば矛盾している。何も後ろ暗い事がなく、何も心当たりがなければたちの悪い冗談だと思うだろう。
保育園でそんな大人をからかう遊びが流行っているのかと。
しかし、後ろ暗い事も心当たりもある加織には冗談に思えない。
加織は思わず胸の前の服を握りしめる。心臓が何かに握られてるようだった。
「ねぇ、千絵。その猫今もいるの?」
加織は千絵に訪う。
「うん。」
千絵は頷くと、あっちと手を動かし、指差した。
「お風呂場の方に歩いてった。」
千絵の指の先を追う。
加織には見えない。
「千絵、どこに行ったか見える?」
千絵は頷くと、加織の手を引いて廊下を歩いていく。
廊下の先には浴室があり、手前には洗濯機が置かれてる。
「洗濯機の中で鳴いてる。」
「鳴いてるの?」
「うん…、おかあさんは聞こえないの?」
千絵は加織を降り仰ぐ。
加織は血の気が引いた。
猫が、いる。
この家に。
千絵は加織の手を離し、洗濯機の足元に足台を持ってきて置いた。
その足台に登り、洗濯機の中を覗き込もうとする。
「千絵、猫見たーい。」




