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猫の家

縁側に座る。

視線はくうを見ているが、何も見ていない。


消えてしまいたくなる。

キエテシマイタイ


何でこうなってしまったんだろう。

ナンデイチイチシカラレナキャイケナイノ


消えたい。

ダレモミカタニナッテクレナイ

消えたい。

ダレモタスケテクレナイ

消えたい。

ダレモワタシナンテイラナイ

消えたい。

ダレモワタシナンテシラナイ


猫がいる。

家の塀でいつも昼寝をする猫。

我が物顔で居座って、こちらを気にも止めない猫。

一筋涙が溢れる。

急に腹立たしくなった。

暗い感情が炎のように燃え上がる。


千絵が買ってもらって、飽きた虫取網を手に取った。

野良猫は油断しきっていたのか、年を取っていたのか。引っ掛けて落とせた。意外にどんくさい。

暴れる猫の爪で手が切れたが、知ったことじゃなかった。


「猫のくせに…!」


猫が声を上げてる気がするが、遠くに感じる。


「お前だって、私が何もできないって思ってるんでしょ…?!」


怒鳴ったつもりだったが、絞り出した声はなれない暴力に昂りすぎて震え、弱々しかった。

虫取網を捻って、棒で猫の頭をぎゅうぎゅう押さえる。

すり抜けようとするが、そんなことは許さない。

猫の体を千切らんばかりに掴んで、頭をぎゅうぎゅう押さえる。


やがて力が入らなくなった加織の腕から猫が逃げて行った。

始めこそ勢いはあったが、その足取りはよたついている。


「はぁ、はぁ…」


息を吐き、加織は庭でへたり込んだ。

猫の怯えた目が焼き付く。


優越感だった。

暴力的な自分が怖い反面、思い知らせてやったんだと思うと重く沈むだけだった石のような心の塊が取れた気がした。


「おかあさん、なにか良いことあったの?」


絆創膏だらけの手で夕飯の支度をしていると、千絵が声をかけてきた。

一瞬、思考が停止する。


(気付かれた?)


バレてはいけないのに。自分が暴力的な事ができる人間であってはいけない。

少なくとも自分以外にバレては。


(落ち着け、大丈夫。だって千絵は見てないもの。)


自分に言い聞かせ、取り繕った。


「…どうして?」


ぎこちない笑顔を向けていると自覚できる。

千絵は、「うん…」と声を漏らし、おずおずと言った。


「おかあさん、笑ってるから。」


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