第五話 誘い(後編)
「ッ…」
無数の手に紐に絡め取られたその姿は、蜘蛛の捕らえられた獲物を思わせる。
竜骨は目まぐるしい思念の暴風雨の中に突っ込まれたようだった。
怨嗟、悲しみ、怒り、それらが慟哭のように巡っている。
「ちょぉし、乗んなゴラァ!」
竜骨が怒鳴り付けると、巨大な物に凪ぎ払われるようにバキバキと音を立てて腕が折れた。
途端に、体が軽くなってフリーリングの床に投げ出された。
「きっしょい…」
呻く竜骨が視線を上げると、そこには首吊り死体があった。壮年の男が、クローゼットに紐を括って死んでいる。
「…」
あれだけ荒ぶっていた思念が嘘のように、死体は静かだ。
「……」
"…面白いな。"
突然、背後から声を掛けられ、弾かれたように竜骨は振り返る。
「?!」
途端に、首を掴んで吊し上げられる。
竜骨に向かって腕を伸ばし、黒い人影が立っていた。
"君、面白いな。"
黒い人影は抑揚のない声で言う。
竜骨は渾身の前蹴りを出すが、霞のように何の手応えもない。
(何だこいつ…生き霊?…)
"神器がそんな姿で現れる事もあるのか…"
(こっちからは触れねえのに…相手からは触れられるって…チートかよっ…)
"竜骨だって?面白い名だね。八股大蛇の尾から切り出された天叢雲剣に相応しい名じゃないか。"
「……てめ…ぇ…」
"人間や動物霊なら触れられただけで滅されてしまうだろうな?"
(こいつ…、私が何か解るのか?!)
竜骨は初めて得体の知れなさを覚えた。
くつくつくつ、喉を鳴らして生き霊である黒い人影が笑う。
"死霊を使って、霊能力の高い人間を収集していた甲斐があったよ"




