第五話 誘い(後編)
襲ってくる無数の腕と化した思念に対する竜骨の作戦は極めてシンプルだ。
「要は一緒に孤独死して欲しい訳だろ。つまりこっちが生きてる以上狙ってくる訳だ。だったら回避に意味はねえ。寄って来るヤツ全部ブッ潰す!」
そう宣言した竜骨は、荒神さながらに暴れまわった。
マンションに置き去りにされたボロボロの傘を獲物に、思念を凪ぎ払う。
「そんなので叩ける訳無いじゃないですか!」
と怒鳴る武を尻目に、傘が襲い掛かる腕をバキバキ折って行く。
「…叩けるけど?」
そう言って不敵に微笑むのだった。
昔、映画で見た中国の剣術のようにクルクルと傘が踊る。
「竜骨サンて、実はスゴい武道家さんですか?」
竜骨に追従していた武が、頭を下げながら竜骨に問う。身のこなしが、素人のそれでないのは明らかだった。特別格闘技に詳しくなくても、一般の域を越えているのは解った。
「じゃねぇーよ。」
応え、竜骨は武を庇いながら一塊になって階段を登り、5階と6階の間にいた。
「私の霊感と同じだ。何もできないヤツよりちょっと才能があるだけだよ。」
(…あれ?今さらっと天才発言した?)
妙に冷静にそんな事を思った。
纏わり付こうとする手に不思議と今までの幽霊のように恐怖を感じない。思念となってしまった物は、ただの思考だからおどろおどろしい殺意や怨嗟を放ちはしないのだろうか。
(そうだ…)
「竜骨サン、そう言えば…あの犬こんな中にいて大丈夫なんでしょうか?」
武の問いに、竜骨は一瞬じっと武を見た。
「…そんな犬居なかったよ。」
それだけポツリと返したのだった。
妙に端的な物言いに武は怪訝な顔をする。
(?……何か変な事聞いたかな?)
階段をじわじわと進みながら、二人は上階を目指す。
(ああ、それにしても…)
1階から続く登り階段に、張って重くなってきた足を動かしながら、武は思う。
(早く上に着きたいな…)




