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第五話 誘い(前編)

「うわぁああああ!!!」


「………」


勢いよく振り向いた竜骨の目に写ったのは、埃まみれでなおかつ大量の埃を巻き上げながら床に転がる蒼白涙目の武だった。


「……え…、竜骨さん…?……本物ですか?」


汚物でも見るような蔑みを両の瞳に湛え、竜骨は憮然としていたが、武のスーツとYシャツの襟首を掴んで引き上げた。

2回目の衝撃に耐えかね、Yシャツのボタンを留めていた糸ががブチチ、と鳴った。


「オイ、ボンクラ!ぼさっとすんな!」


怒声を上げ、竜骨は武の腕を引いて走り出す。


「ま、待って下さい!」


構わずに纏わり付いてくる思念達を凪ぎ払う。

武の前で異形の腕がひしゃげ、武はひっと潰れた悲鳴を上げた。


「うるっせえ!!死にたくなきゃ走れ!足止めたらコロスぞバカ!!」


前を見たまま竜骨は武を罵倒し、階段を駆け上がる。

片手は武を掴みつつ、竜骨はバックから榊の枝を取り出した。


「クシイナダの比売にかしこみかしこみまをす!」


竜骨が榊の葉を振る。すると、突風のような衝撃と共に纏わり付いてきていた思念が消し飛んだ。一瞬、稲の匂いが漂った気がした。

竜骨は周囲に気配が無い事を確認し、足を止めた。

武はぜえぜえと息を吐いたのも束の間、上段にいた竜骨に襟首を掴んで締め上げられた。


「オォ、コラ。私が親切で色々言ってやったのにノコノコ入ってきやがって…どう言う了見だ?あぁ?」


「リュウ…ちょっと、説明しますから…っ」


掠れた声で応え、じたばたする武を暫し締め上げ、竜骨は暴れ牛さながらの長めの溜め息を吐くと、漸く武を解放した。


「えっと、…竜骨さんを待とうとして車に乗り込んだんです。シートに座ろうとしたら景色が変わってて、車の中じゃなくてマンションの中にいました。それも、部屋の中にいて…窓の所にカーテンが引いてあって、外は見えなかったんですけど…ベランダに…こう、首が延びてU字になった人がへばり付いている影が見えて、不味いと思って竜骨さんを呼んだんです。そしたら、閉じてる襖の奥から『並木サン』って呼ばれました。でも、竜骨さんに思えなくて、『竜骨さんですか?』って聞いたら、『リュウコサンだよ』って言うんです。何度も何度も、何度も。」

繰り返し繰り返し。

「それで、絶対違う。いよいよ逃げなきゃって、部屋から逃げ出したら、竜骨さんがいたんです。」


と、言うわけでした。と、武は弱々しく言う。

竜骨は罵声を放ちかけて止め、代わりにまた溜め息を吐いた。


「まぁ…、捕まってなくて良かったよ。」


怒らずにはいられない想いに、怒ってもしょうがないと言う思いが勝った。


(…あんまり時間を掛けたくない案件だな…)


竜骨はそう結論付けると、武に説明を始めた。


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