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第五話 誘い(前編)

おろおろしている武に、竜骨は深い溜め息を吐いた。


「解った、私が見てくる。」


「え?!」


「並木サンは入っていきそうな顔してるし、止めたって帰るとは言わねえだろ。時間の無駄。その代わり、手に負えなかったら帰ってくるぜ?」


そして竜骨はスタスタ歩いて行く。


「俺も行きます…!」


武は竜骨を追い掛ける。


「駄目だ。並木サンはこの中に入るべきじゃない。」


竜骨はイライラを抑えるためか煙草に火を着ける。


「物に干渉できるってことは、もうただそこに居る幽霊じゃねえ。怨霊とでも言うのか…。何にせよ、すでに建物がここに居る奴のテリトリーって事だ。そう言う変質した怪異は、人間にも干渉する。並木サンみたいな良いようにされやすいヤツが入ったら、廃人にされるぞ。」


竜骨は煙を吐き出す。

大きく深呼吸をして、吸いかけの煙草を駐車場に落として揉み消した。


「1時間して戻ってこなかったら、いい加減諦めてケーサツ呼んでくれ。もしくは帰っても良い。良いか、絶対入ってくんなよ。」


竜骨は宣言すると、自らの黒いバックから葉っぱを取り出した。細い枝に艶々した葉っぱが生えている。


「駐車場は平気だと思うけど、万が一、何かされそうになったらこれで叩け。」


「これは…?」


確か竜骨が契約した部屋でも同じような葉っぱを見た気がする。


「霊験新たかな榊の枝。」


じゃあな、と竜骨は踵返した。

当然のように入り口へ向かい、当然のようにドアが開く。

管理上、鍵が掛かっているはずなのに。


キィィ、と音を立ててドアが閉じ、竜骨の姿は完全に見えなくなった。


「…」


残された武はいたたまれない気持ちで立ち尽くす。


(俺に、できる事はないんだろうけど…)


武は幽霊を含む怪異に抵抗できる術はない。竜骨の説明通りなら、武がこの場で取るべき行動は、無理に付いて行って竜骨の言う廃人になるような事態を回避する事。竜骨に迷惑を掛けない事だ。


(でも、そんな危ない奴の所に竜骨サン一人を行かせなきゃいけないなんて…)


無力感に、思わず拳を握り混むのだった。


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