第五話 誘い(前編)
「……」
いつの間にか竜骨の口数が減っていた。
「駐車場はそこから入ってください。」
竜骨に縁石の切れ目を伝える。駐車場の枠を指定して、駐車場に降り立った。
「此処は、事務所として使われていたんです。契約者さん兼オーナーさんが首吊り自殺を。」
「……。」
建物を見上げる竜骨の顔から、先程までの饒舌さが嘘のように目線が鋭くなる。
「並木サン、ここ確実にいるぜ。」
「…。」
竜骨の言葉に、武は身を固くする。
竜骨のキャラクターから考えて冗談ではないだろう。
「どうする?鑑別だけだったらもう済んだけど。」
「契約者はいない、です。」
竜骨の問いに武は答える。
日本兵の物件でのやり取りの再現のようだ。竜骨が居る、と言うのなら疑う余地はなく居るのだろう。
空を反射する窓ガラスに何かが写りそうで、武は目を反らした。
「…オススメは、関わんねえ事だけど。」
「…そうですね。」
武が応え、二人が戦略的撤退から車に乗り込もうとした時だった。一匹の黒い犬が駐車場を横切る。
キィ…
そして、マンションの入り口が、開いた。
そこにすかさず黒い犬がマンションの中に入って行く。
「あっ…」
野良犬だろうか、首輪は見えなかった気がする。
追い掛けようとする武を、竜骨が制した。
「おい、まさか追っ掛けるとか言うなよ?!」
「でも、うちの物件なんです。もし中に巣でも作ってたら…」
「目玉ついてンのかよ?あのドア、勝手に開いたろうが。招き入れられてンだよ。私達は。」
竜骨はイライラして言う。
「こう言うのはとりあえずケーサツに通報しとけば良いんだって。防犯システムが作動したとか何とか言って。」
「いや、警察沙汰は…」




