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第五話 誘い(前編)

車内は竜骨によるナイチンゲールやヘンダーソンの人名や、様々な概論、理論はキューブラー=ロスくらいから取っ付きやすくなるなどの講義が続いた。


「看護覚え書きってヤツはマジでマニュアルなんだけど、今のバイト先にあるみたいなヤツってより、日記とか記録みたいな物だな。あれについてレポート出せって言うのは、苦行だね。接客マニュアル読んで、レポートにするようなもんだからな。」


「へぇ…」


看護学校と言うのは、基本的に見学や在学が多いようだ。竜骨も例に漏れず、日々レポートに追われている。


(俺としてはレントゲンが人名なのにちょっとビックリした…。)


武は助手席でそんな事を思った。

3件目の物件に幽霊はいなかった。竜骨曰く、供養してくれる人がいる場所へ行ったようだった。

何事もなく3件目の鑑別が終わり、いよいよ最後となる4件目の物件に移動している車中である。

3件目の鑑別のあと、武は運転を交替しようとしたが、竜骨に


「私といる間はさっきみたいなの起こる可能性がある訳だけど、良いの?」


と言われてしまった。

さっきみたいなの、とは走行中の車体に幽霊が落下してくる可能性があると言う事である。

武は一瞬自分を奮い起たせようとしたが、竜骨がとある交差点で見た事がある、大きな口をした異形が交差点町の人を口に含んで離す行動を繰り返してると言う意味不明な怪談や横断歩道を渡る幽霊が途切れなくて発車できなくなる開かずの交差点など道路関連の怪談と言う名の目撃譚を聞かされ、断念した。


(正気な対応ができる気がしない…)


社会人としてのプライドと正気の維持を天秤に掛け、正気の維持を優先した。

そうしてハンドルを握った竜骨が暇を持て余したのも助けて、看護学校でのレポートや実態について話している所である。


(不動産屋で仕事をしてて、こんな事になるなんて思わなかった…)


「次の次の信号を右です。」


武は物件へのナビゲーションをしながら思った。


(あと、一件。…次で最後だ。)


一生分どころか、一生関わる事のなかったはずの世界の側面とも言える体験をした。

それもあと一件の物件で終わる。

その体験に、武は既に旅行のような達成感と疲労感を感じていた。


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