第四話 見えるもの
「それと、私といるって言うのが原因だよ。」
「…どう言う事ですか?」
「聞いた事ないか?霊感のある人間と心霊スポット行くと心霊現象が起きるとか。例えるなら、無線電波接続ケーブルって言うのに感覚的には近いのかな。あれって屋内でネットワークに繋げられる端末に電波で無線状態で接続できるようにするシステムだろ。
幽霊に関わるって言う行為が設定パスワードになって、無線電波接続ケーブルに接続されたから幽霊が発信する情報を受信できるようになったって事。まぁ、情報を受信しても、受信端末のスペックが違えば通信速度やら画像解像度が異なる訳だけど。」
例え話のお陰で現状が分かりやすくなった。
無線電波接続ケーブルの役目をしてる竜骨と共に幽霊に関わったから、半強制的に幽霊と接続状態にあると言う事だ。
そして、そもそも霊感がない武と霊感のある竜骨では情報処理のスペックが違うので、受信できる情報の規模が変わってくると言う事だろう。
「だから…」
信号が黄色に変わり、竜骨は減速する。
「さっきの質問の答えは取り敢えずノーだ。私と一緒にいなきゃ、接続は勝手に切れるよ。」
慣性の力を僅かに受けながら、車は停止する。
「だからまぁ、このバイトが終わるまでは頑張れよ。」
「…。」
遠回しに、縁を切られた。
これからも幽霊と関わり続けなくても良い安堵感と共に、一抹の疎外感を感じる。
同じ幽霊を見ても、同じ景色を共有しても、武には竜骨と同じ物は何も見えないのだと。
当たり前のその事実が途方もない孤独感を思わせた。
「竜骨さんは、怖くないんですか?」
「……。」
武は不機嫌そうな横顔を見る。
出会ったときから常に伏し目がちで暗い顔。
何が気に入らないのか。
何が許せないのか。
その顔は怒っているように見える。
きっと、その顔は誰にも共有できない物を持っていて、常に対峙する対象が絶えない者の顔なのだろう。
「私が怖がったって、誰も私を助けらんねえよ。」
ボソリと、言い切った。
誰に理解されようと言う物ではないその言葉は、それ故に真意だった。
「…。竜骨さん。」
「何?」
「竜骨さんの看護学校の課題って、どんなやつなんですか?」
一瞬の沈黙。きっと話題に脈絡がなかったせいだろう。
「…何かこのバイトに関係あるの?」
「いえ。…ちょっと、気をまぎらわせたくて。」
不自然な話題の転換に、自然と武は歯切れの悪い言い回しになる。
また沈黙。
はぁ、と竜骨は溜め息を吐いた。「そう言うところだって…」と口の中で呟く。
「…ンだよそりゃ。てめえのメンタルぐらいてめえで何とかしろよ。てめえ社会人だろうが。」
「正論って言えば、正論なんですけど。」
竜骨も元の罵声混じりの口調に戻る。
圧倒的に共有できない事実があるからこそ、武は竜骨と少しでも同じ物が共有してみたいと思った。
手の中のカフェオレは温くなっていたが、もう手は暖かかった。
第四話 見えるもの ー完ー




