第四話 見えるもの
(…ダメだ。)
竜骨を追い掛ける事はできなかった。
実際の事故ではないが、人身事故を疑似体験をした上に、朝からの心霊続きでまともに運転できない。
自分の要因で仕事が停滞する事への焦燥感、竜骨を待たせている現状に自己嫌悪になる。
理不尽だと思っても、自分のせいで仕事を遂行できない事に泣きそうになりながら、必死に耐えていると運転席のドアが外からガチャリと開いた。
「降りろ。」
竜骨は憮然と言うと、乗車した瞬間締めていた運転席のシートベルトをさっさと外し、武のスーツの首根っこを掴んで引きずり出した。
「え、ちょっ…」
まごついていると、竜骨はさっさと運転席に乗り込んだ。あっという間に閉め出され、運転席の外から見える視界の中で竜骨は座席の位置とバックミラーの位置を調整し、シートベルトを締めた。
「竜骨さん、何してるんですか?」
武が運転席の窓ガラスにすがり付くと、ウィイインと運転席の窓ガラスが降りた。
「時間の無駄。マジで事故られたら迷惑だから助手席でナビって。」
無愛想に言い切ると、おもむろに窓ガラスを閉めた。
武は慌てて窓ガラスから手を離し、動けずにいると短いクラクションと共にギロリとした視線に射ぬかれた。
視線に気圧され、戸惑いながら助手席側に回る。
「社用車で保険が…」
「ンなもんテキトーだよ。あと、今のてめえより自信ある。」
武が助手席に座りながらおどおどしながら言うと、一蹴された。
あまり乗り慣れない視点に、座りが悪い想いをしながら、言われるまま弁明できずシートベルトを締めた。
「あの、少し休めば大丈…」
武が言いかけると、無造作に何か突き刺された。
「これ持って。」
差し出されたのは清涼飲料水用の缶に入ったカフェオレだった。掌には少し熱い。
「緊張とか怖い思いしてっと、手ェ冷えるから。暖めると自律神経整えんの手伝ってくれる。…無理に飲まなくていいから持ってて。」
確かに、今は掌から伝わるその熱さが心地好い。
「ありがとうございます…」
「良いって。…。それより取り敢えず真っ直ぐで良いの?」
「はい。あの、気を付けて下さいね。」
「…。解ったよ。あと、ゲロんなら教えて。車停めるから。」
運転慣れしている動作で周囲を確認し、竜骨は車を発進させた。




