第四話 見えるもの
「生き霊が自殺してるんだ。」
竜骨はくいっと顎で上空を示す。正確には、車道から歩道を挟んで建つビルの上を。
築40年は経ってそうな6階建てのビル。
1階は貸し店舗らしきテナント、5階と6階にはダンス教室の看板が出ている。2階には窓越しにカウンター席が見える。構造上、おそらく3階から4階は倉庫になっているのではないかと想像できた。
近代の6階に比べたら低い作りのその6階建てのビルの縁に、誰かが立っている。
まだ幼さも残る風貌の男子中学生が、俯いて立っている。
じわじわと視線を上げた武の前で、ビルの縁から中学生勢い良く飛んだ。
走り幅跳びのような距離を助走もなく、歩道を飛び越えて、車道に堕ちていく。
「ッッ…」
視線を反らした。反らす事ができた。
"2回目"だから、武は目を反らして耳を塞いだ。
ドォン!!
パァン!
破裂音と衝撃音と共に、実際の衝撃が靴の裏から振動する。
「ぅうッ…」
(何だコレ。何だよコレ?!)
目眩と吐き気で固く目を瞑る。
「へぇ、驚いた。自殺かと思ったら、そうじゃねえのか。」
竜骨は感心した声を上げてる。
「あれでストレス発散してるみてえ。マジでアタマオカシイな。」
「もう、何言ってるんですか…意味わかりませんよ…」
武は縮こまったまま言う。
「アイツから恨み辛みは感じねえ。場所への執着も感じねえし。何より飛ぶとき、すっげえ愉しそうだぜ。恋でもしてんのかねえ。まぁ、中学生っぽいし、血気盛んなんだろ。」
「何一つ意味がわかりません…。」
一人納得する竜骨に、武は弱々しく返す。
「たまに居るんだよ。溢れすぎた思念が霊体として抜け出しちゃうヤツ。生き霊体質って言うの?2、3体くらい出せるヤツは結構いるよ。所謂、恨み辛みで取り殺しに行くとか、好きな相手に飛ばすって生き霊は1体が多いな。目的が復讐とか対象が限定してるから。でもコイツみたいなヤツは、思春期で色々考えたり悩んだり、ムラついたりして、思考が肉体のキャパシティーを越えた感じ。」




