第四話 見えるもの
「え、…え??」
遅れて、そんな声が出た。
ハンドルを握った手が、固くなって冷や汗が吹き出す。
ざぁあ、っと音を立てて血の気が引いた。
何で、どうしてそのような事になったのか解らないが、車の目の前に落下してきた人間を轢いてしまった。
(警察、も…だけど、まず救急車っ。会社に連絡して、今日誰がいたっけ?事件、警察、助けないと…)
ぐるぐるぐるぐる。
思考が渦巻いて初動が起こせない武の横から地の底から沸いてくるような声がする。
「………ってなァ…」
低い竜骨の声が車内に響く。
突然の衝撃に首を押さえながら運転席を睨んだ竜骨の目に、顔面蒼白で涙目の武が映る。
「ンだよ、事故った?」
「あ、りゅ…い、いま、ひとがっ…」
「うぜえな、落ち着けって。」
あ"ー、と低い声で唸ると、一拍置き、後続車を警戒して何も来ないことを確認してから、機敏な動作で竜骨はシートベルトを外して車を降りた。
竜骨は車の周囲をうろつき始める。
「あ、すみませんっ…」
遅れてガチャガチャと武は車から降りた。
「生き霊だな。」
「へ?」
竜骨は視線を上げている。
「ボンネットも、車の上も、トランク側も、車体の下を見たけど何もねえよ。」
竜骨の言葉に、武も車体の周囲を舐めるように見回る。
「そんな…だって凄い衝撃でしたよ?」
「自分で見て解るだろ。車は何もなってないよ。」
確かに、車体には傷ひとつ付いてない。
もちろん車道に人の姿はないし、血の痕らしき物もない。
「地縛霊かと思ったら生き霊だ。」
竜骨はチッと舌打ちをする。
眠りを妨げられたのが気に入らないらしい。
「えっと、…」
武は混乱する思考が整理できない。
「どういうことでしょう?俺はやっぱり人間を轢いちゃったって事ですか?」
「じゃねぇよ。」
忌々しげな溜め息と視線を竜骨は武に無遠慮に向けた。




