第三話 異文化
「…」
そんな偶然が、と思うと同時に、武は成仏と聞いて良かったような、切ないような釈然としない気持ちだった。
「子孫がいなくなった…って…。皆亡くなったって事ですか?」
「遠い親戚はいるみてえ。まぁ一番の気がかりは直系だったし。そこが途絶えればな。」
自分の墓に手を合わせる人間がいなくなったと言う事か。
家族の事を思って戦争に出て、幽霊になって家族を見守っていたのに、年月が流れるにつれて、誰も手を合わせるものがいなくなった。
そういう霊は、この世に留まっても誰にも思い出してもらえないのかもしれない。だからようやく、成仏できると思い至ったのかもしれないが。
それは成仏と言って良いのだろうか、と複雑になった。
「一番下の段、開かなかったはずなのに…。」
事の成り行きを呆然と見ていたマリアがポツリと言う。
「この棚、伯父さんが職場の人から貰ってきて、私の旦那さんが運ぶの手伝ったんです。その時も下の段が開かなくて。…どうやって開けたんですか?」
「…。神様にお願いした。」
竜骨はとぼけるように肩を竦めて言う。
マリアは狐につままれたような顔をしている。
「しかし良かったな。窃盗団の人間が何か盗ったのかと…」
ぶん!と竜骨を黙らせるために思わずはたこうとした武の手は、掠りもせず空を切る。
「何だよ?」
「デレカシー!!モラル!!」
じろりと睨む竜骨に、武は最小級に声を潜めて怒鳴り付けた。
2件目の幽霊は居なくなった。
後に、帰ってきた家主のアントニオが
「幽霊は居なくなったし、タンスの一番下が使えるようになりました。日本の家貸しは凄いです。」
とマリアを介して連絡してきたのは、また別の話。
第三話 異文化 ー完ー
2件目終了。




