第三話 異文化
いずれにしても、この日本兵を先頭に行列ができてしまってる。霊の通り道を霊道と言うが、これは別物である。
現世に留まりたい、あるいは成仏したくない想いに連られて霊魂が集まって列をなしてしまっている。
(……面倒くせえ…)
竜骨はもう一度ため息をつくと、武がいる駐車場へ戻った。
「おかえりなさい。あの、竜骨さん幽霊は…」
おずおずとした武に目もくれず、竜骨は煙草に火を着ける。
「見たまんま。あそこにいるのがここの人が見たって幽霊だろうな。子供の霊は、もういない。」
「そうなんですね。」
子供の霊はいない、と聞いて武はホッとする。子供が成仏もできないでさ迷ってると思うと、いたたまれないものがある。
「先頭に日本兵がいるんだけど、そいつが他のヤツを引き寄せてるんだな。あいつが退けば、ここの幽霊は消えるよ。」
「日本兵…」
武は単語を繰り返す。
「幽霊の格好としてはオーソドックスですけど…、脈絡がないですね。」
黒髪に白いワンピースの女、落武者など"ジャパニーズ幽霊と言えば"と言ういかにもなビジュアルにランクインしそうな日本兵だが、家主は外国人でこの辺りに特別に慰霊碑や日本軍関連の施設があった訳ではない。
「何か返してほしいんだとさ。」
「返す?契約者の方が何か借りてるって言うんですか?」
思わず被せて問う武に、竜骨は迷惑そうな顔をする。
「知るかよ。窃盗だか何だか知らねえけどよ。とにかく野郎は返してもらうまで動かねえつもりみてえ。」
うーん、と武は腕を組んで唸る。
竜骨には個人情報の関係で話していないが、契約者は50後半の出稼ぎに来たブラジル人だ。
日本では30年以上暮らしているが、その間に前科はなかった。
30年以上、自国語以外知らなくても暮らしてこれるほどの狭いコミュニティで生きてきた人間と、日本兵の接点がどうにも見えない。




