第三話 異文化
"返してください。"
日本兵は玄関ドアのすぐ間近に立ち、部屋の方へ向き直っている。
"返してください。返してください。…お願いします。"
声なき声が日本兵から響く。
「おい、あんた。ここの住人に何かされたのか?」
"お願いします。返してください。"
竜骨は訝しげに眉を潜めた。
日本兵の襟元の階級を示す星が、左端に寄ってる。昭和16年以降階級の位置が中央寄りから左寄りになった。加えて無地の赤に星2つ。
日本兵の目鼻立ちは痩せているが、20代から30代ほどのように見える。
その情報を加味して考えるに、大正初期の生まれの人間だろう。生きていれば、100歳は越えてる。
その姿が亡くなった時代のものなら、接点があるとは考えにくい。
「…おい。あんたとここの人の接点なんてないはずだろうが。」
"…返してほしいんです。お願いします…"
竜骨はため息をついた。
どうにも埒が開きそうにない。
(外国人の窃盗だんなんて良くある話だし…。ここに住んでるヤツが何か盗ったって事か…。)
日本兵は私怨と言うより、この部屋に執着している。正確には、この部屋の中だ。
返せと言うからには、執着している対象が中にあると言う事だろう。
(…にしたって、やっぱ年齢が合わねえ。死んだ年代がずれてる感じでもねえし…。それともこいつの子供か孫が被害者か?)




