第二話 リュウコサン
武はふと、思った事を口にする。
「あの…、今日はどうしていっぱい話してくれるんですか。」
前回の内覧の時は、食い下がっても教えてくれなかったのに。
絞り出すような言葉を、竜骨は鼻で笑った。
「社長に報告すんだろ。私は二度は言わねえから。」
しっかり覚えとけよ、と竜骨は言って玄関に向かった。
(ああ…、何だ…)
と、武は思う。
(良かった。)
存在に気付いてから感じてる、この、蠢くような気配のせいではないのだ。
ゴロゴロ言ってる喉の音のような声のせいでもない。
妙に鼻孔に付く獣臭さのせいでもないのだ。
(取り憑いたりしてるんじゃないんだ…)
異形の気配に寒気を覚えつつ、ゆっくりと武は玄関へ向かった。足が重いのだって、気のせいだ。
「おい、早くしろよ。」
「あ、すみません。」
玄関から忌々しげに言う竜骨に武は答える。
「てめえの感受性が良いから、くっついてこようとしてるぜ。」
竜骨の言葉に、武は即行で靴を持って玄関を出た。玄関の鍵をかける。
「…そう言うことは早く言ってください!!」
武は息を吐き、蒼白涙目で竜骨に抗議する。
「うるっせえな、チンタラしてるからだろぉが。」
そう言って、自分はさっさと車へ向かう竜骨の背中に「おかしいですよ!」と武は靴を履きながら怒鳴る。
「あぁ?何が。」
振り向きもしない竜骨の背中から心底めんどくさそうな声がする。
「…私、霊感なんてなかったのに、こんな…!」
「" 長い間、深淵をのぞきこんでいると、深淵もまた、君をのぞきこむ。"」
答えになってない歌うよな言葉に混乱する。
「何ですか、その中二病みたいなの。」
武の言葉に、竜骨が一瞬肩を震わせた。
(笑ってる…?)
武からはその表情は見えなかったが、竜骨が一瞬笑った気がした。
「ニーチェだよ。結構有名だと思うけどな。」
そこで言葉を切り、竜骨は振り返る。
しかし、その視線は武ではなく、戸建の2階に向けられていた。2階の、窓へ。
「覗かれてるんだよ、私達も。」
黒目がちな目が鋭くなる。
メンチ切ってる、と武には解った。
「せいぜい化け物に注意するこったな。」
第ニ話 リュウコサン ー完ー
1件目終了。




