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9:光セイバー

 廃材ボックスはホールの隅にあった。

 段ボールとビニール袋でできたショボい作りだが、厄介なことに結構な数があった。全てチェックするのは相当の骨だが、時は一刻を争う。

 

 クリスはゴミまみれになりながら一心に廃材ボックスをあさっていた。駆けつけざますぐサムも加わり、捨てられた懐中電灯を探しはじめる。事を知ったヘンリーはじめ、何人かのクルー達もそれに続いた。

 

 パニックの悲鳴は続いている。肩越しに糸の溢れるバリケードを見たサムは舌打ちをした。糸はさっきよりもずっと勢いが増し、量が増えている。阿鼻叫喚はさながら地獄絵図のようだ。

「あった!!」

 ヘンリーが叫び、ゴミに足をとられつつ二本の懐中電灯をサムに手渡した。サムが受け取り、壊れた所がないかチェックする。

 一通り見て「くそったれ」と苦いものを噛みしめるように言ってすぐ、ドライバーで懐中電灯を分解し始める。

「どうなんだ」

 クリスがせっつくように尋ねた。

「壊れてる。エイミーのやつ、無理やりコードを引きちぎったんだ。再調整に一時間……いや二時間はかかる」

 サムのその言葉に血の気が引いたクリスは、愕然と膝をついた。

「そんな、うそだろ……」


 ちょうどその頃。現状に指示を出す伍長の元に、ヘンリー率いる数名のクルー達が助けを求めに出ていた。

 わめく伍長がヘンリーの説明にぴたりと黙り、ひとつ頷く。頷いてすぐ、現場をヘンリーにまかせ、えっちらおっちらと廃材ボックス置き場に向かった。

 

 一方、サムとクリス。

 クリスは絶望まま奥場を噛みしめ、胸で十字をきり神に祈っていた。

 サムは壊れた懐中電灯と格闘していた。頭は忙しく回転する一方、不安と焦りがどんどん大きくなっていく。悲鳴が交錯する中、手はばかみたいに震えていた。

 

 手元の機械が消えたのは、まさにその瞬間だった。

 サムが驚きに顔を上げる。壊れた機械は、駆けつけた伍長のその手にあった。思わず噛みつく勢いで声をあげそうになったが、伍長の手つきに思わず言葉をのむ。

 伍長は機械を壊さないよう両手にそっと持ち、カウボーイが地平線を見つめるように目を細めていた。その手つきに、サムは言葉を失った。伍長の動きは、長年の歳月だけが物語る熟練機械職人そのものだったからだ。

「……周波数の光を一つに束ねる高出力レーザー兵器か。だがまだまだじゃな」

 伍長は小さく呟き、工具を片手にスクラップをいじり始める。手の懐中電灯はバチンと大きな音とともに、ちょっと焦げくさい臭いを放つ。重点を一瞥した伍長が納得したように頷き、サムの手にホイと懐中電灯を手渡した。

「貴様はまだまだヒヨッコじゃが、見込みはある。それでとっととヤシログモを始末してこい!」

 伍長はそれだけ言って「ああ忙しい忙しい」とボヤきながら、バリケードをおさえるクルー達に指導を出しに戻っていった。


 サムは驚きままに懐中電灯をチェックする。そして息を飲んだ。飲みきれず笑い声に出る。

「は……ははは、マジかよ……あのおっさん何モンだ?」

 あふれる蜘蛛の糸を横目、クリスが噛みつくようにわめいた。

「どうだ、いけそうか!? どうなんだ、ヒゲ男!!」

「どけ」

 サムはニヤつきまま言った。

 クリスはかまわず吠え返す。

「なんだって!?」

「ちょっと離れてろっての!」

 サムが言って、両手をいっぱいに伸ばし、懐中電灯のスイッチを入れた。

 その瞬間、懐中電灯から目もくらむ強烈な閃光が一条噴き出す。同時、クリスの背後のコンテナが金切り声に絶叫し、一瞬で塵の山と化した。

 

 周囲のパニックは、一瞬でこおりついた。その視線はひたとサムとその手に集まっている。

「やっべ、出力間違えた」

 サムは慌てて懐中電灯の尻をひねり、光線がみるみる縮んでいく。そしてちょうど、竹刀ほどの長さに落ち着いた。

「……その……ッ」

 クリスは言いかけて息をのんだ。のんでやっと声が出た。

「……もう少しで僕に当たるところだったじゃないかッ!」

「だから離れてろって言ったろ?」

 サムはニヒルな笑みひとつ、変貌をとげた懐中電灯をクリスに手渡す。

「プラネットウォーズの光セイバーは男の永遠の憧れってやつだよな」

 クリスは手の光セイバーを握った。湧き上がる勝機に、湧き上がるように口角が上がる。

「ああ。僕も一度、光セイバーで敵をやっつけてみたかったんだ」

 サムとクリスは見合い、互いにしっかり頷いた。

 

 

 サムとクリスの二人はホールの正面玄関で身構えた。

 バリケードは数人で抑えているものの、今にも破られそうだ。丸い小窓からはヤシログモの影が何体もうごめいている。

 クリスが真っすぐ見据え、サムも光セイバーをかまえた。

「扉を開けたら、すぐに閉めてください。僕たちはそのままデッキへ向かいます」

 伍長はしっかりと頷いた。

「ここはこのポーマン伍長にまかせろ! ヒヨッコ、クリス、健闘を祈る!」


 せーの、で開いた扉の向こうに飛び出したサム達は、ヤシログモ達を光セイバーでひとなぎした。その威力はすさまじく、ヤシログモは次々と真っ二つに絶命していく。

「今じゃ! 扉を閉めろっ!」

 その刹那、叫ぶ伍長のわきを一人の女性がすり抜けた。伍長がその背に叫ぶ。

「待つんじゃ! エイミー!」

 エイミーは涙いっぱいに振り返り、振り絞るように声を上げた。

「わたしのせいだから……ッ! 皆を危険にさらせないの!」

 

 たむろしていたヤシログモや繭を一掃したサムとクリスは、かよわい声にふり返った。かたく閉ざされた扉を背に、エイミーが銃を手に震えている。

「エイミー……、どうして来たんだ」

 クリスは何とも言えない面持ちで返事を待った。

「ごっ……ごめんなさい」

 エイミーは涙をぬぐい、胸に手を当て真っすぐクリスを見た。

「私も闘えるわ」

 それにクリスは首の後ろをかき、大きなため息をついてサムを見た。サムは言わずもがなに肩をすくめ、顎で先をさす。

「第二陣が来たぜ、突っ切るぞ!」

 それにクリスも向き直り、エイミーを背に光セイバーをかまえたのだった。

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