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4:物品保管倉庫

 物品保管倉庫は部屋の角というか、特に目立つ事のないであろう突きあたりにあった。

 けっこう大きめな両開きの扉は、工場の倉庫を彷彿とさせる。

 すでに中を詮索済みのクリスが厭味ったらしく腕時計にため息をついたが、サムはかまわず扉を開放した。

 

 照明が鬱陶しそうにチラつき目を覚ます。

 埃っぽい臭いとともに目に飛び込んできた光景は、ジャンク山もりのバッカン(コンテナ式ゴミ箱)と申し訳程度の工具が少し、あとは使い捨てられたであろう汚いパイプが数本あるだけという狭っ苦しい場所だった。

 

 クリスの予想に反し、サムはヒュウと口笛ひとつ。バッカンにヒョイと上半身を泳がせる。

 サムがごそごそやってるさなか、クリスはサムの汚い靴に顔をしかめていた。機械油が染み込んだ安っぽい安全靴には、足の裏に切粉やネジがほじくるのも困難なほど深く埋まっている。こんな靴で飛行盤に乗っていたなんて危険な話だ。

「そういえば、君は飛行盤に乗っていたと言ったな」

 クリスがスクラップを一望しながら続けた。「よほどの金持ちなんだろ、飛行盤は高級品だ」

「俺のじゃない、親父のだ」

 サムは言い投げてスクラップをあさる。

「君の親父さんは賢明な人なんだな」

「ああ?」

「一般には公開されていないが、先ほど言った〔宇宙の歪み〕は地球にも及んでいる。僕みたいな職に就いている者はその影響に備え、自家用の飛行盤を設備している者も少なくない。避難先として目標を居住宙域に合わせてね」

 サムは聞いているのかいないのか、満足げにバッカンから降りた。

「宝の山じゃねーか」と、スクラップの山を床に並べる。

 

 クリスは両腕を組んで腰を屈め、目を細めた。原人の踊りをどう上手くレポートするか考えているアナウンサーの顔だ。

「……僕にはゴミにしか見えないが」

「まあ見てろよ」

 サムは言って、キューブ型玩具のようにゴミをいじくりはじめた。腰袋から工具を抜き、次々と解体しては部品をわけ、次々と何かを組み立てていく。

 飄々とした雰囲気は消え、まるで職人のような眼差しでスクラップを改造していた。

 

 クリスは汚い床に尻をつけないよう、気をつけてしゃがんだ。

「何を作っているんだ?」

「武器だよ、これだけありゃあ放出砲エミッターも簡単に作れる。ヤシログモなんざ一瞬で真っ二つにできるぜ。計測器がないから調整にちょっと時間がかかるけどな」

 言って、機械となった部品をひねった。電気特有のバチンとした音が響く。サムは臆する事なく次々と部品を作っていく。

 クリスの尻は床にすっかりくっついていていたが、目はかまわずサムの機械にくぎ付けとなっていた。

「ちょっと君をみくびっていたよ」

 クリスが視線はそのままに続けた。

「僕も多少は機械を触るけど……まさか武器を作るという発想はなかった。子供のころ、ブロック型結合式玩具で作ったりはしたけど。普段はどんな仕事を?」

 サムが得意げに笑む。

「俺の仕事はお上品じゃなくてな、スクラップでも何でも使ってとにかく成果を出さなきゃいけなかった。何だって作ったぜ、電子妨害手榴弾に、高周波カッター、操作型歩行兵……」

 それにクリスが驚きに両眉を上げた。

「すごいな。君は兵器関係の仕事をしているのか!」

「いや、もう無職だ」とサム。軽く言ったもののちょっと虚しくなって言い直した。

「十年務めた職場が無くなったんだよ。再就職しようにもどの会社も面接落ち。どこも俺みたいな時代遅れの機械工はいらないんだと」

「ふうん」とクリスは頷き、思い出すようにサムにふった。

「君の親父さんの会社はどこだ? 飛行盤を所有できるくらいなんだから、相当のコネがあるだろ」

「親父は二十年前に死んだよ」

 サムは言って、ふとクリスを見た。「飛行盤ってそんなに高いのか? ボロい倉庫で眠ってたんだぜ」

「ああ、あれはでかいから置き場所に困るんだ。自家用なら結局、地下か庭に置くしかないだろうな。かくいう僕も自宅に持っていてね。妻は庭が狭くなるってイイ顔はしなかったけど」


 妻という単語にサムがふとした。

「へぇ、俺ァてっきりエイミーとあんたがデキてると思ってたよ。奥さんいたのか」

 それにクリスが慣れたように頷き返した。

「エイミーはただの同僚だ。それに僕は子供もいる。こんなところで死ぬわけにはいかないんだ。君だってその年なら彼女くらいいるだろ」

 ひとつ間があった。サムがちょっと気まずそうにせき払いを返す。クリスは何事かとサムの返事を待った。

「いねーなあ、彼女……いたこともねえや」

 蚊の鳴くような声だった。その返答にクリスが豆鉄砲をくらった面持ちでくらいつく。

「うそだろ? 君は一体いくつだ?」

 サムは機械をいじり、「二十六」と一言呟いた。

 その返答にクリスは豆鉄砲どころか大砲をくらったように目を見開く。

「僕とタメなのか? 君は三十代後半に見えるぞ」

「大きなお世話だっつーの!」

 サムの言い抑えに、クリスが納得したかのように小さく何度も頷いた。もれなくひっぱたきたくなるような表情だがサムはひとつこらえる。


 〔彼女〕……その言葉に、なぜかミミの笑顔が浮かんだ。それと同時、〔こんなところで死ぬわけにはいかない〕という想いが強く胸を打つ。

  ミミは寂しがり屋だから今頃きっと泣いている。その姿を思うと胸が締め付けられたように痛くなった。

「ぁあ、死ぬわけにゃいかねえよ……」

 サムが自身に言い聞かせるように呟く。

 それにクリスが頷き、腕をめくり立ちあがった。

「手伝おう。何をすればいい?」

 

 物音に気付いたエイミーは、そっと顔を上げた。

 薄っぺらいブランケットを大事に抱え、物音がどこからするのかじっと耳をすませる。そっと立ちあがり、音のする保管庫へ向かった。

 ……ゴミの崩れる音と共に、何やら声がきこえる。

 その様子にエイミーはぽかんと口をあけ、ブランケットを床に落とした。

 二人とも気でも違ったのだろうか、ゴミの海で海水浴客のように仲良くクロールをしている。

「レンズ無いか?」

 スクラップの山でサムがぶっきらぼうにクリスにふった。

「あと高電圧バッテリーがありゃエイリアン・バスターズもビックリの武器ができるぜ」

「こっちは無いみたいだ」

 別のスクラップの山からクリスが言った。

「でも半導体ならでてきたぞ」

「ナイス」

 サムが親指をたて、スクラップの山を一望した。

「目ぼしいのはもう無いな。あとは本当にゴミだけだ」


 二人はゴミまみれでスクラップの山からおり、体をばんばんはたいた。まるで黒板消しをぶつけあったような埃にエイミーが後ずさる。

「ふ、二人とも何してたの……?」

 舞う埃にエイミーが両手で口をおおった。「今、武器とかきこえたけど」

 それにクリスが頷き、サムの手の小さな基盤と配線の塊を指した。

「武器を作っているんだ。でも部品が足りなくて」

 それだけ言って、すぐさま案内図を開き、顎に手をやり考え込む。

 

 エイミーはサムを見た。サムは工具を手にどっかり座り込み、真剣そのものにスクラップをいじっている。

 

 静かな間だった。気をもんだエイミーが何か言おうかと思った瞬間、クリスが動いた。

「高電圧バッテリーなら廃棄エリアに予備があるはずだ。あそこはフォークリフトを使うからな。レンズもコンデンサ(光集器)を外せばいけるはずだ」

 それにサムが目覚めるように顔を上げる。

 クリスはそれが合図だったかのように続けた。

「少し遠いが、行けない距離じゃない」

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