表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/18

第三師団と (後)

二人の幽霊の話



「まあ、そうでなくても気味が悪くてね。幽霊もでるし」


幽霊?トマスのグラスを持つ手が止まった。


「そうなんですよ、クリスティ様とヒュー」


「二人の幽霊を見た奴は腰抜かして帰ってきたな、ハハハ」


「滅多なこと言うもんじゃないぞ」


「二人の幽霊って?」


「ああ、トマスさん。ここらへんじゃ有名ですよ。男爵様の本家筋の方だから大きな声では言えませんがね。」


 と別の年かさの騎士が少し声をひそめて言う。どうやらおおっぴらに話す事ではないらしい。




「死んだじい様の若い頃の話というから今から80年ほど前ですかね。




 ――ホイットニー男爵家のクリスティお嬢様と使用人のヒューは幼なじみでとても仲がよかったそうです。でもヒューは出自も定かじゃない孤児でとうていクリスティ様と結ばれるような身分じゃ無かった。




 そうこうする内にヒューは出奔して、残されたクリスティ様は近くの地主に嫁がれてそろそろ子どもが生まれるという頃。ヒューが戻ってきたんですよ、裕福な商人になって」


「おう」


「お屋敷に勤めたじい様が言うにはあくまで商人と得意先という関係で深い仲には見えなかったそうです。ところがキャロル様の旦那様がそれは嫉妬深くて大変だったとか…」




そこで騎士は酒を一口。唇を湿す。


あまり幸せな結婚ではなかったのか。




 「で、ある時二人の姿が小神殿の丘で消えてしまった。クリスティ様はお子さまを産んだばかりだったそうですよ。




嵐の後にローモンド湖へ二人の遺体が流れ着いたんです。駆け落ちなのか無理心中なのか今となっちゃわかりませんがね。




 ただ、ヒューがね。クリスティお嬢様の身体を守るように抱え込んでいて引き剥がそうにも身体が離れなかったと聞きますね」




 どうりであの二人、とトマスはこっそり呟いた。




「小神殿の丘の近くに二人は葬られたんですが。以来、丘に近づくと幽霊がでると噂がたちましてね」




 と騎士は話を結んだ。


 そこへ若手の騎士が話を継いだ。




「幽霊がでなくても小神殿の丘の辺りは誰も近づかないっすよ。自分は近づくと冷や汗と震えがきて足が動けなくなるんす」




 ―――覚えのある症状だ。窶れていた夫人とジェレミーの姿が脳裏によぎる。




「それって、立ちくらみがしたり力が抜けたりしないか?」


「そう、その通りです!トマスさん。よく分かりますね」


 騎士が食い気味に反応する。そして隣の騎士をこづきながら続ける。


「こいつなんか、俺の事を臆病だのなんだの馬鹿にして……」


「いや~お前さ。誰よりも力強いのにな~」


「うん、体質だからね。無理しない方がよいよ。小神殿の丘の捜索からは外れた方がよいかもね。そうだよね、ゴードンさん」




トマスはゴードンに目配せして言う。




その騎士は簡単に目視できるほど赤身を帯びた橙色の光を纏っている。騎士達の中でも魔力が強かった。




「そうでなくとも、年々、羊や山羊が丘の辺りでいなくなる数が増えてきて。丘に家畜が迷い込まないように柵を打とうかって話をしていた所だったんです」


「神殿の丘の上の穴にはまりこんでんじゃないかと村の者は言ってるけど、あそこには近づけないんで確認しようがないんすよね。ゴードン少佐も行ってみてわかりましたよね」




 うんうん、と騎士達は頷く。


 ゴードンも頷いた。




「確かに、あの丘はおかしいぜ。セントルからきた騎士達で調べようとしたんだがな。騎士も犬も足がピタリと止まって震えて登れないんだ。へたりこむわ、失神するわ、犬は吠えだした挙げ句に逃げ出そうとするわ。散々な目にあった。俺も脂汗かいて動けなかったよ。あんな酷いのは初めてだ。


 はは、酒でも飲まなきゃやってられねえぜ。トマス。ウイスキー、おかわり」




 ゴードンは自嘲するように笑ってからトマスがついだ水割りをぐいっと飲んだ。




 パーシーが引き継ぐ


「だから俺たちが呼ばれたのだな」


「ああ。トマス坊主と不死身のストンブリッジでなんとかなるのを祈るぜ」



 そう言われてもな。パーシーはともかくトマスができる事なんて魔力を見る事ぐらいだ。


「パーシー、あの症状って」


「ああ、魔力切れの症状そっくりだな」


「ヘンリー、長官に聞いてみよう」


 * * *


 その後、長官と魔道通信で話をしたが。訳がわからないアドバイスで終わったな、とトマスはムッとした。


 なんだよ、結局は生きている方が強いとか。まるで化け物がいるみたいじゃないか。この科学の時代に時代錯誤な。


( 俺がやるのは魔道具の交換、化け物退治じゃないはず。きっと)

と不吉な予感を振り払った。



 そこへバタバタと騎士が駆け込んできた。


「大変だっ、ジャクソンの所のピーター坊やの姿が小神殿の丘の近くで見えなくなったって村中で騒いでいる」



 ◼️ ◼️ ◼️


 暗い底でソレは待っている。


 なかなか得られない獲物に少し焦れていた。


『タりない、まだたりない』


『さあ、ハやくつれてこい』


『アレに二たオオきいのはつれてこられなかった』


『モうすこしだったのに』


『ちいさくてもヨい、つれてこい』


『コノ羊よりはクいでがある』


『もっとチカラを』


『もっとマリョクを』


 ソレは夢みる。


 またカラダを得て外に出る日を。


 復讐を果たす日を。


 その日は遠い未来では無いはずだ



事件は動く。

お読み頂きありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ここまで読ませていただきました。消えた女の子のエピソード、そしてまた、ヒューとクリスティの二人と、誰も近付かない小神殿の丘。謎に引きこまれます。 パーシバルは、本当に強いのですね。そして、長官からの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ