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トマス・レーンの災難~いなくなった少女~  作者: のどあめ


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第三師団と (前)

事件の手がかりとホイットニー領の昔話。場面転換がちょくちょく入ります。

 雷と共にやってきた嵐は二日続いた。ようやく雨が止んだ翌朝。


「おい!お嬢様の靴が湖から上がってきたぞ」


 シャーロット嬢が履いていた靴がローモンド湖から見つかったという一報が届き、騎士団の詰所は一気に騒がしくなった。


「やっぱり小神殿の丘からか?」

「そうか、あそこからか。男爵様がおっしゃられた通りだな」

「丘の下から湖につながっているからな」

()()()()の遺体が湖から上がってきたと言い伝えられたのとほぼ同じ場所からでてきたから間違いないだろう」

「このまま身体も流されてくると良いが」

 ぼそりと若手の騎士が呟く。

「俺、()()()には行きたくないな」

「俺もだよ」

「ご領主様には悪いけどな…」


 騎士達の話を聞きながらトマスはこれまでの話に思いを馳せる。


  * * *


 男爵自身はこの地の言い伝えを詳しくは知らないと言った。


「私の曽祖父の代から我が家はずっとセントルで暮らしていましてね。先々代で本家が絶えてしまい急遽、父が男爵位を引き継いだのです。私はセントル生まれのセントル育ち。小神殿の丘の事は迷信だと思っていた」


 男爵は膝に肘をつき両手で顔を覆う。


「古参の使用人からは、かつてローモンド湖周辺で勢力を誇った貴人が小神殿の丘に眠っているので入ってはならないという言い伝えを以前から聞いてはいました。あの丘から離れていた所にいたのにまさかこんな事になるとは」


 帰り際に、トマスは長官謹製のアミュレットを夢見が悪くて眠れないと言うジェレミーとすっかり窶れ果てた夫人に渡した。何故だかそうするべきだと感じて。


 白く光るアミュレットを手にする二人から、トマスを怯えさせた不吉な黒い靄が消えた。顔色が良くなる二人を見て安堵したのだが。


 ―――トマスが持っていたマーリンのアミュレットは二つだけだった。遠くない将来に「あの時なんで渡しちまったんだ、俺のバカバカバカ~」と全力で後悔するとは。その時のトマスは想像すらしていなかった。


 * * *


 嵐がくる前に帰還した、二人が滞在する第三師団。嵐がおさまるまで捜索は中止になった。トマス達が差し入れた酒と料理で一昨日の晩は二人の歓迎を兼ねた宴になった。


「うお~い!魔法庁長官殿からの差し入れだ。お前らも礼を言えよ」

「「「はい!ありがとうございます。」」

「うまっ、この鳥の揚げ物うまっ。幾らでも食えるぜ」

「うぉ~っ、上等のウイスキーが3ダースも。俺ストレートでいくぞ、早い者勝ちだっ」

「「魔法庁のお役人様に乾杯!」」

「「伝説の英雄 ストンブリッジ大尉に乾杯!」」

「今夜は呑むぞ~」

「「お~!!」」

「一晩中呑むぞ~」

「「お~!!」」

「お前ら、ほどほどにしろよ」

「「はい!ファルコナー少佐殿!」」


 これまでの鬱憤を晴らすようにはしゃぎ回る騎士達。


「伝説の英雄 パーシバル・ストンブリッジ大尉」の登場でそれはそれは盛り上ったのだった。


 どんな戦場でも生還する男。


 元々、第一師団にいたパーシバルは軍の中では有名人だった。たちまち棋士達に囲まれて武勇伝をせがまれたり、腕相撲を挑まれている。


「おい、これで15連勝だよ!」

「強すぎだよ、英雄」


と皆で盛り上がっている。


―――今は魔法庁の若僧トマスのお守りもとい育成担当をしているパーシバル。どうしてこうなった。





「すまんな。皆、思うように捜索が進まないでくさくさしてたんだ。差し入れ助かったぜ、トマス坊や」


 と同じくセントルから出張ってきたゴードン ファルコナー少佐がグラスを持ち上げて感謝する。


 長年、魔法庁と軍との橋渡しをしてきたゴードンとトマスは子どもの頃からの付き合いである。日頃、豪快な少佐らしくもなく愚痴がでる。


「地元の騎士が小神殿の丘には怯えて行きたがらなくてな。妖精が出るとか悪霊が出ると言ってな」

「まさか……」


トマスの顔がひきつる。

今日見た()()()()がうようよいるのだろうか、とはさすがのトマスもゴードンには言いにくい。


「俺もはじめは連中がサボタージュしてんじゃないかと疑ったよ。まあ、当人達から話を聞いてた方がよいだろう。おい、ちょっと来てくれターナー達」

「「「「はい!」」」」


 パーシバルと腕相撲をしていた地元出身の騎士達が五人ほどやってきた。パーシバルも一緒だ。



「トマス・レーンです。こちらの英雄殿と違って下っ端の使い走りです。よろしく」


とは言うものの。騎士達はセントルから来た謎の役人にどうしたらよいか戸惑っている様子だ。


「まあ、そう固くならずに。そうだ、これはどうだろ」


 と薄手の鞄から揚げたての鳥の揚げ物を載せた大皿をだしたものだから騎士達は目をみはって驚いた。


「うお~、すげえ。俺、魔法見るの初めてだ」

「いやあ、便利なものですね~」

「手品じゃなくて?トマスさん、その鞄見せてくださいよ」


 掴みはオッケー。魔法は宴会芸に有効らしい。種も仕掛けもないけれど。


「魔道具が便利なだけだよ。それより、冷める前にこれ食べてみたら。おすすめだよ」


ヤマダさん特製の鳥の揚げ物だ。

騎士達は恐る恐る食べて感激する。


「熱ッ。さっきの揚げ物より旨い」

「味にコクがあって旨いっすね」

「これ、ザーンギって言うんだ。ショーユとかいう東方の調味料やらスパイスで味付けしてるらしいぞ」

「よくわからんけど、おいしいっすね」

「うまけりゃいいよな、何でも。ほら、飲んだ飲んだ」

「揚げたてのポテトもあるぞ」

「エールにぴったりだ~。トーマスさん、俺あんたについていきますっ」


 餌付けもとい打ち解けた騎士達は口々に話をしだした。


「俺たち、次男や三男ばかりで。騎士団って言っても普段はのんびりしたもんなんですよ。たまにいなくなった羊や山羊探す位でさ」

「本当、本当。こんな事件に駆り出されるなんて騎士をやってて初めてだよ。シャーロットお嬢様、早く見つかるといいけどな。あんなに可愛らしいお嬢様が可哀想でならないや」

「小神殿の丘が怪しいって事らしいですね。なんとか遺体が湖に流れてきてくれると良いんですがね」


 トマスとパーシーが不思議そうな顔をすると騎士は補足した。


「あの丘の下には水脈があって、よくいなくなった子羊や山羊の遺体がローモンド湖に流れ着くんですよ」 


 なるほど。それでずっと湖を捜索していたのか。二人はようやく理解した。


「小神殿の丘は禁足他と男爵から聞いたが。どんないわくがあるんだ?」


 というパーシーの質問に四十を越えた位の騎士が答える。


「元々、貴人の墓とか。後は古代の刑場で丘の穴から罪人を落としたとか言い伝えがありましてね。

 古い祠の跡が残っているんですよ。わしら子どもの頃からあそこだけは行ってはいけないと爺さん婆さんに言われてきましたな」

「な。小神殿の丘に行くと妖精に拐われるって俺は脅されたな」

「僕は化け物に食われるっておふくろに言われたよ」

「昔、じいさんがいなくなった子羊そっくりの羊を見かけて追いかけていって。気がついたら小神殿の丘の穴にはまりそうになったって言ってたな」


酒が入っている事もあって、騎士達の話しはどんどん脱線していく。


「まあ、そうでなくても気味が悪くてね。幽霊もでるし」


幽霊?トマスのグラスを持つ手が止まった。


トマスはフェイクで収納の魔道具を使っている風にみせてます。


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