断章
いなくなった女の子
たすけて
たすけて
だれか
囚われてからずっと泣き叫びたかった。
逃げられない。
指図に従い彷徨う日々。
でも、助けを呼べない。
知られたら自分の様になるから
◇ ◇
物心ついた時から仲がよかった妖精さん。光に包まれた妖精さんは屋敷の庭や荒野にいてきらきらと話しかけた。
『シャーロット、だあいすき』
『シャーロット、きれいなお花を見に行こうよ。丘の上はもっともっときれいなお花があるんだよ』
『シャーロットの魔力はおいしいね』
『大きくなったら行こうね、たのしみだね、シャーロット』
お兄様に話すと『妖精なんかいないよ』と言われた。
お母様は『きっと妖精さんね。シャーロットは素敵なものが見えるのね』とよろこんでくれた。
でも。ヘレンはいつも私に言ってたの。『昔から妖精には近寄ってはいけないと言われてます。相手にしてはいけません、さらわれてしまいますよ、お嬢様』
私、あんなにきれいな妖精さんがこわいものだとは思えなかったの。
お父様お母様にねだってピクニックにでかけた湖。湖の側には妖精さんが言っていた通り、きれいな花畑があったの。
花冠を作っていたら妖精さんが私の周りに集まってきた。ヘレンに言われたから、私知らんぷりしてたのよ?
『シャーロット、丘にいこう?』
『シャーロット、もっときれいなお花畑があるよ』
『シャーロット』
『シャーロット~、こっちをむいてよ~』
それでも返事をしなかったら、見たこともないくらい沢山の妖精さん達が私を囲んで一斉に歌を歌い出したの。
『つむじ曲がりのメアリーさん
あなたの庭はどんな庭?』
歌を聞いていたら何だか楽しくなって私も一緒に歌って。妖精さん達に背中を押されて丘をのぼったら。化け物につかまった。
化け物は言うの。
『もっと獲物を連れてこい』と。
村の子どもやお母様、お兄様を連れてこいって。そんなのいやだわ。
でも妖精さんが見張っているから。
キラキラに見えた妖精さんは真っ黒だった。私の後をつけて皆の光を食べている。
村に行って歌を歌った。歌詞を変えて。
『シャーロット、まじめにしない』
『魔力食べられるからいっか~』
寝ているお兄様の所に行った。
誰も気がつかない。
『シャーロット、連れていかない』
『なかなか美味しい魔力、たべられる』
お母様は私がいなくなってからずっと泣いている。
『妖精なんてシャーロットに言うのではなかった。私のせいでシャーロットは……』
お母様、ごめんなさい。
ヘレン、言うことを聞かないでごめんなさい。
今日もお母様達を見ていた私に、きれいな光を纏った金色の瞳のお兄さんがそっと話しかけてくれた。
『シャーロット、皆が君を待っている。早く出ておいで。帰っておいで。それが難しいならせめて手がかりを』
帰れないけど。せめて。
川に流した。化け物は川に近づけないから。
『シャーロット、かってなことした。ご主人様にさからった』
『オノレ、よけいなことを!シバりがタリなかったか!』
『さあ、ハやくつれてこるんだ』
『こんどシクじったらユるさんぞ』
身体の周りを真っ黒な煙が包んでいき目の前が真っ暗になる。
だれか、た す け て。
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