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養い親と

第二話です。

よろしくお願いいたします。

 

 出発前日の夜である。


 独身寮の一室でホイットニー男爵領へ向かう準備をしていたトマスはふと手を止めた。


 扉の向こうから漏れだす怖いくらいの白金の魔力。急いで扉を開けるとベージュのロングカーディガンに同色のスラックスをはいた養い親がにこにこ顔で立っていた。


「やあ、トマスくん。ちょっといいかな?」


 トマスはため息をついた。

もう夜中なんだけど。もうすぐ寝るところなんだけど。これだから時間感覚のない魔法使いは。


「いいですよ、ヘンリーさん。明日早いんでちゃっちゃと済ませてくれますかね?」


 養い子が冷たいとぶちぶち言いながらもヘンリーはバスケットを差し出した。中から焼きたての香ばしい匂いがする。


「ヤマダさんから旅の間に食べてくれと言付かってね」

「わあ、ヤマダさんのマフィンとスコーンだ!いただきますっ」


 長らく学生寮にいたからヤマダの手料理は久しぶりだ。トマスの表情が緩み、いそいそと()()にしまう。その様子をヘンリーは微笑ましく眺めていた。


 トマスが使う「収納」。

幼い頃に必要に迫られて取得した魔法が「転移」と並ぶ特殊魔法である事を彼は知らない。


「後、これもね」


 とヘンリーの手から次々と出される大量の手料理と酒瓶の入った箱。


「第三師団も煮詰まっているらしいからね。僕達からの差し入れだよ」

「あのゴードンさんが手こずっているなんてよっぽどだよな。渡します」

「よろしく頼むよ。それでね、トマスくん……」


 養い親は目をさ迷わせた。

怪しい。幼少の時から振り回された経験が警鐘を鳴らす。養い親がやばい事をごまかそうとしていると。


「ヘンリーさん、今度は何やらかしたんですか?」

「やらかしてないよ、失礼な。いや、ちょっとルミナリスから話があってね」

「おい、大事(おおごと)じゃないか、女王陛下案件なんて」

「たいしたことないよ~、ちょっとした簡単なお仕事だよ~」


 魔法使いが取り出したのは大量の白い光を放つ魔道具だった。両腕で抱えるほど大きいのから携帯用まである。


「まぶしっ、何これ?」

「ああ、()()()()()きついかもな。うん、魔力の浄化装置だよ。昔ね、ホイットニー男爵領の辺りで魔道具を設置した事があってね。ずっと管理してもらっているとばかり思ってたんだが。ちょっと、ね……いや目を離している間に管理していた施設が無くなっちゃったみたいで」

「おい、おっさん!」

 就寝前の気だるさが吹き飛んだ。

「君だって長生きしたらわかるよ。当時は討伐とか戦であちこち行かされてブラックな生活していたんだよ?さすがの私も覚えていないよ」

 ヘンリーが口をとがらせる。とんだ逆ギレである。大人げない。


 それでも、心なしか目をそらせながら魔道具の設置場所と交換方法を話すヘンリーをトマスは腕を組み見据える。


「ねえ、設置したのは何年前?」

「あ、いつだったかな~?五百年はいってるかな~」

ヘンリーはこてんと首を傾げた。年齢不詳のおっさんがやっても全く可愛くない。

「施設は百年だか二百年前まではあったらしいんだよ。私はその頃は色々あってね~」


 要するに放置していたのか。


「いや、年数的にだいぶ浄化されてるだろうから大丈夫じゃないかと思うんだけどね。一応だよ、一応」


 トマスは肩をすくめた。


「わかったよ、ヘンリーさん。でもさ、心配ならヘンリーさんが行ったら?転移したらすぐじゃん」


 ヘンリーは苦笑いをした。


「私が行くと、魔力の痕跡も何もかも吹き飛ばしてしまいそうでね。それで令嬢の捜索に支障をきたすといけないだろ?」

「ふうん?」


 よく分からないがそんなもんか。

 こうしてトマスは()()()魔法使いの尻拭いをする事になった。


 これ、魔法庁の仕事だろと言う発想が無いのが新人の悲しい性なのか、あほなのか。


 さらに、魔法使いが念のためと言って出してきた魔道具やポーションを見て何も思わないあたり、トマスは後者なのかもしれない。


興味を持った道具を手当たり次第に手に取って眺めている。


「あ、これ魔道砲だ。前から使って見たかったんだ」

「昔は魔法使い殺しと言われたんだよ。魔力を持つ者への攻撃力が抜群でね。……ま、闇魔法使いだと逆効果になる場合もあるけどね」

「あ、これパーシーと演習で使ったやつだ」

「これ起動すると物理防御できるの?魔法に対しては?どういう術式使ってるの?」


 次々と取り出される魔道具に夢中になるトマスである――彼は魔道具オタクであった。トマスには常識を持って生きて欲しいとヤマダに懇願されたのでしぶしぶ趣味に留めていたが。


 最後に魔法使いが出してきたのは古めかしい装飾が施されたミスリル製の剣だったので。さすがのトマスもドン引きした。


「ヘンリーさん……」

「ん?」

にっこり笑う魔法使い。

絶対何か隠している。

「あのさ、魔道具の交換だよね?なんでこんな物がいるの?俺たち、昔話の騎士でも冒険者でもない普通の文官なんだけど」


(普通の文官はブートキャンプはしないけどね)

とヘンリーは思った。


「ちょっとした魔除けだよ。たま~に死体に瘴気が宿ったりすると危険になるからね~。困った時は少し魔力を込めたら簡単に浄化できるよ。お守り、お守り。想定外の事態が起きた時のリスクマネジメントだよ、ハハハハハ」


 持ってみるとかなり重量がある。これは同僚のパーシー、パーシバル ストンブリッジに持たせよう、とトマスは思った。身体強化の鬼で軍人あがりの彼なら使いこなせるだろう。


「あ、その剣。魔力込めると軽くなるよ。少し()()()()けどね」


 養い子が剣を収納にしまうのを見届けると、自由で過保護な銀髪の魔法使いは踵を返した。


「それじゃあ君たちの健闘を祈るよ」


 そう言って姿を消した。


「なんだよ、ただの出張に大袈裟な」


ミッションは人捜しのはず。オプションで魔道具交換がついたが()()()()()のはずだ。


(子どもの幽霊(あれ)は感情の抑えが効かないのが多いから危ないっちゃ危ないけど。ここまで準備する必要あるか?)


トマスは釈然としなかったが、とりあえず寝ることにした。明日というか今日早いし。



 一方、転移した魔法使いは呟いた。


「なんだかんだ言っても君たちは魔法使いだよ。優秀なね」




お読み頂きありがとうございます。

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