エピローグ
最終話。短いです。
魔法庁の二人組はセントルへの帰途についた。なんと帰路は第三師団の車である。
トマスは興奮が隠せない。
ああ、分解して動燃部分や駆動部はがどの様に設計されているか調べてみたい。魔力や余計な者が見える半端な能力より機械の内部構造が見られる力が欲しかった。
魔力がなくても馬車より早く移動できて皆が使える現代技術、素晴らしい。科学って最高。文明万歳!
車に乗り込んでも、運転席や床をべったり張りつかんばかりに眺めているトマスである。お前は子どもか。運転手が居心地悪そうにしているぞ。
「トマス、そんなに面白いか?」
「うん、魔法陣を使う魔道具と比べると魔力の流れが素直でよいよね。分かりやすい」
「魔力?ああ、煙晶石か」
「魔力が少し混じってるからね」
煙晶石は魔力を吸収する性質がある。どんな人でも魔力があるのを利用してスイッチなどの起動部分に使われるのだ。
「ゴードンさん、後で駆動機関の中身見せてもらって良いですか?良いですよね!」
「相変わらず機械大好きだな、トム坊や」
「その呼び名やめて下さいよ、ファルコナー少佐。俺、もう成人してんですけど」
「悪い悪い。初めてトマスと会った時はこ~んなに小さかったからな」
と、ゴードンは膝の高さに手のひらを下げた。
「いや、そんなに小さくないから」
「イメージだよ、イメージ」
事件がようやく解決してファルコナー少佐は清々しく笑っている。
そう、相客はゴードン・ファルコナーである。というかゴードンの車に同乗させて貰うのだ。なんだかんだで軍は予算あるよね。
「アディントン卿に緊急報告があるからな。お前達と一緒に移動した方が早いだろ」
報告という名のアディントン卿への事情聴取と軍上層へ報告する為の辻褄合わせを行うのである。
魔法に疎くて現実主義者な軍のお偉方相手にアンデッド退治とか勇者が使った聖剣とか何百年前の常識で魔法庁長官にぺらぺら話されると下は色々と困るのである。
パーシバルは胃の辺りをそっと押えた。
常識が大きく乖離している天然上司と認識のすり合わせを行う事を想像すると今から何かがゴリゴリと削られそうである。不死身と言われた男でもストレス回避は難しいのである。
「今回はストンブリッジとレーンがいなければ解決しなかったからな。どうだい、二人とも第三師団に異動して未解決のヤマを担当してくれないかね?」
「あ、お断りで。俺、やっぱり肉体労働は向いてないと実感しました。軍の適性ありません」
トマスはすかさず断った。ゴードンとは子どもの頃からの付き合いなのでお構い無しである。任務は終わったし。
『さすがに魔物退治は軍でもやらないぞ』
「なんか言ったか、パーシー」
「いや、何でもない」
「そっか、残念だな」
と言いつつゴードンはほっとした様子である。説明に悩むやらかしをする部下の尻拭いはパーシバルの様子を見ているだけでも大変そうだ。苦手な書類仕事も増えそうだし。
「そうそう。俺、文官だからさ。この際、事務仕事しっかりやりたいんだよな。せっかく文官試験突破して役人になれたしさ」
パーシーはにやりと笑った。
「そうか。そろそろ次年度の予算編成が始まるからお前もやるか?」
「お、パーシーやらせてくれるの?」
「もちろんだ。予算策定は役人の花形業務だ。お前も本部に所属しているのだから、これ位は鼻歌混じりでこなせないとな」
「やった~。楽しみだな」
パーシーがご機嫌で答えるのを眺めながらゴードンは微妙な顔で黙っていた。
この時のトマスは知らない。
現代と価値観が違いまくる天然上司に、やりたい事しかしたくないけど予算を要求しまくる魔法庁の変わり者達との調整に胃を痛める事を。
後ろ楯になってくれる王家や軍への根回しに超現実主義者な財務との折衝でこれでもかと走り回り、何ヵ月も魔法庁に泊まり込みで血反吐がでるまで働かされる事を。
魔力が見えても余計な者が見えても自分の事は見通せない。
トマス レーンの災難はまだまだ続く。
(おしまい)
最後まで拙い作品をお読み頂きありがとうございますm(__)m
そして評価、ブクマして頂いた方、感謝いたします。連載の励みになりました。




