パーシバル・ストンブリッジ
苦労人 お守り係 視点
トマスがいつも通り気絶し、あとよろされたパーシバル ストンブリッジはため息をついた。
「それにしても派手にやったな」
身体強化と魔力障壁を使ってもなお二人の体力気力魔力を削り続けた瘴気はアンデッド諸共にきれいさっぱり消えてしまった。
鍾乳洞の天井から大人十人は軽く入る程の大穴から外光が射し込んでいる。あちこちに骨の破片が散らばっていなければ実に神秘的な光景である。
「お~い!大丈夫か~!」
上からゴードンの声が聞こえる。
瘴気が晴れ第三師団が丘の上まで登ってこられたようだ。
「こっちだ!救援を頼む」
「そこにいるのか?ストンブリッジ。今から救出に向かう。レーンは無事か?」
「トマスも無事だ。いつも通り気絶している。シャーロット嬢を見つけたので回収を頼む」
「見つかったか!穴から向かう。待機していてくれ」
トマスは軍人ではない。
パーシバルが鍛えたとはいえ実戦経験の無い魔法疔の役人、しかも新人で魔物退治をやってのけた。
そもそも何百年も魔物が現れてない現代。あの化け物相手に第一師団ですらどれだけ対抗できただろうか。
不死身と言われた自分ですら食われかけた位だ。全滅寸前まで行ってアディントン卿の出動を要請する可能性の方が高かっただろう。
そんな化け物を泥縄式であっても退治できる魔法使い。
大魔法使いの秘蔵っ子と言われるだけの事はあるのだ。
もっとも、当人は全くやる気が無く日頃から「やる気ゼロに何かけたってゼロだよ」とか「俺の魂が訴えてんのノーモアブラック労働って」(おまえ、そんなに過重労働してないだろうがとパーシバルは突っ込みを入れた)等と嘯いている。
トマスのやる気の無さは異端と排斥されないための防衛本能もあるのではないかとも思うのだが。
思い出したらトマスの頭を軽く殴りたくなったパーシバルである。
かく言うパーシバルもアディントン卿に見出だされるまでは魔力持ちとは自覚しなかったために周りから散々に言われた「化け物」と。
死にたくない
仲間を助けたい
その一心で十七の時から四年間戦場で足掻いていたらいつの間にか生きのびていた。どんな熾烈な戦闘や爆撃に晒されて隊が壊滅してもパーシバルだけが生きて戻った。
事情をよく知らない者は「不死身の英雄」だの持ち上げたが。上層部からは「死神」だの「疫病神」と気味悪がられ厭われてパーシバルは激戦区に追いやられて行った。
何度泣かれながら罵られただろう。友を亡くした、かつての同期に。戦友だった者の家族に。
「どうしてあいつが死んでお前だけが生き残ったんだ。どうして助けてくれなかったんだ」
「ごめんなさい。どうしても考えてしまうの、あの子が死んでしまったのになぜって」
「この化け物が、仲間を見殺しにして」
若いパーシバルには堪えた。確かに一人生き残る自分は皆が言うように化け物なのかもしれない。
そんな中で「お前はサバイバルする才能が人三倍あるだけだよ」と言って側にいてくれたのが第一師団で一緒だったゴードン ・ファルコナーだった。
ひょんな事で知り合ったアディントン卿に自分が身体能力に特化した魔力持ちである事を知らされて。第一師団ですり潰されるように戦場で酷使される日々は終わった。
その代わりに、アディントン卿が手を焼く養い子の世話係になり。今、やらかしの後片付けに胃を痛めている。
残念ながら、魔物が駆逐されて久しいこの世の中では
「アンデッドを掃討しました!」
「それはよくやった、グッドジョブ!」
とはならないし。人間は自分達の想像の範疇を越える物は異物として排除したがる生き物だ。
自分を気味悪がった上層部の気持ちが少しわかってしまう位には今回のトマスの働きは非常識だった。
(過去に魔法使い狩りが起きたのも分かるな。あからさまにしたら俺以上に使い潰される)
思わずパーシバルは胃をおさえた。
(どう説明をつけたものか)
程なくしてゴードンと第三軍が洞窟に到着した。早速、シャーロットの遺体を搬送する事になった。
ゴードンは開口一番、目を細めてパーシーに言った。
「お前、本当に大丈夫か?首、血が止まっていないぞ」
「たいしたことない。すぐ止まるさ」
パーシーは無造作にゴードンが渡したハンカチで止血する。
「お前、無理するなよ」
とゴードンは呟いてから小声でパーシーに話しかける。
「驚いたぜ。いきなり丘から轟音がしたと思ったら地面に大穴が空いて白い光の柱が立ってよ。伝説にある勇者の魔物退治の言い伝えにそっくりだったぜ」
「ええ、まじか………」
それを聞きパーシバルは両手で頭を抱えた。そんなにド派手な事になっているとは。その様子を見て、ゴードンは色々と察した。
「もしかしてトマス坊主がやったのか? すげえな。世が世なら伝説の勇者か魔法使いか?実際、見ていた騎士達が騒いでたしな。いや~魔法使いだけは敵にまわしたくないぜ」
そういえば、トマスが持っていた聖銀製の剣。しれっと長官が「勇者が使った聖剣を持たせたから大丈夫」とか耳打ちしていた気がする。養い子可愛さになんて物を渡すんだ。養い子も養い子だが、養い親もやらかしすぎだろ!
パーシバルは頭を押さえながら言った。手の下のこめかみには青筋が立ってぴくぴくとしている。
「ゴードン。そうだな。洞窟の岩の下敷きになって亡くなった令嬢の遺体を救出する為に爆弾を使った。若手だから加減を間違えたということにしてくれ……アンデッドと聖剣で戦って魔力で大穴をあけたなんて、第三師団や軍のお偉方に言っても信じないだろうからな」
がたがた言ってきたらアディントン卿に責任を取ってもらおう。
「おう、了解。後半は聞かなかった事にするわ。周りが納得しないだろうがそういうことにするか。上にそのまま報告なぞできないしな」
「いつもすまんな、ゴードン」
「いいさ、あの養父子の非常識には慣れてるからな。――また気絶か、大丈夫か?トム坊やは」
「魔力に任せて無理な身体の使い方をしたからな。当分、身動きできないと思うぞ」
「しかし、この洞窟から坊主をどうやって運ぶんだよ。子どもの時ならともかく、この図体だぜ」
「いい考えがある」
パーシバルはにやりと笑った。
トマスが穴の下までパーシバルに引きずられ、無理やり叩き起こされて穴底から放り投げられるまで後僅か。
さて。二人が丘の魔法陣に設置した浄化の魔道具はどうなったのだろうか。トマスの非常識な魔力放出で充分過ぎるほど魔力がチャージされた魔道具は思いの外長く稼働し続けた。
後に小神殿の丘はブラトー王国の知られざる癒しと浄化のバワースポットとして有名になる事を二人は知らない。
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