勇敢なシンデレラ
短いです。
アンデッドを倒した後。
『お兄さん』
肩で息をするトマスの前にシャーロットが現れた。もう黄緑色の光に纏わりつく黒い靄は無い。
『お兄さん、たすけてくれてありがとう。わたしのからだはここよ』
シャーロットに案内されたどり着いた洞窟の奥の岩影。
そこにあったのは冷たい水にさらされた金髪の女の子の遺体だった。最期まで逃げようとしていたのか片手を伸ばしてうつぶせに横たわっている。
靴は片方だけしか履いていない。
トマスは敬礼をする。心なしか声がつまるように聞こえたのは気のせいだ。
「シンデレラ、今までよく頑張ったな。君が知らせてくれたおかげで化け物を見つけられた。弱点を教えてくれたおかげでスケルトンを退治できたんだよ。ありがとう、感謝するよ」
この小さな身体で魂で。死してもアンデッドに抵抗し家族を 守ろうとした勇敢な令嬢を称えなければ。
ヘンリーは「幽霊は微細な魔力の残滓だよ」と言っている。しかし好むと好まざるにも関わらず幽霊が見えて会話ができるトマスにはそうは思えない。
今まで見てきた幽霊達は未練や想いや土地に囚われていても何時だって自由に振る舞っていた。感情に素直だった。こっちがドン引きするほどに。
―――なのに、シャーロットは。
黒い塊と共に男爵家まで彷徨い魔力を奪う手引きをさせられていた。
ピーターを拐うように命令もされたのだろう。洞窟での姿は男爵家で見た時より黒く染まっていた。
最後はアンデッドの盾にさせられて、拳が震える。
(あのクソ野郎、もっとぼこぼこにしてやればよかった)
「シャーロット、君が抵抗したおかげでお母様もお兄様も無事だよ。誰も死ななかった」
『よかった……お兄さんも気がついてくれてありがとう。ずっと一人で悲しくて寂しかったの』
シャーロットは泣きそうな顔で微笑んだ。こんな小さな子どもを死んでも囚えて利用して辛い思いをさせるなんて。あの腐れアンデッド、地獄に墜ちろ。
「ずっと冷たかったろう。さあ家へ帰ろうな」
トマスは上着を脱ぎ、冷たい少女の身体を上着で包み込んでから抱きかかえた。その身体は思ったより小さくて冷たかった。
徐々にシャーロットの身体が白い光に包まれていく。
『お兄さん。わたし、もう行かなきゃいけないの。お迎えがきている、一緒に行こうって。――お兄さまの言うこときけなくてごめんなさいってジェレミーお兄さまにつたえて』
「わかった。全部伝えるよ」
シャーロットの姿がいよいよ薄れていく。
『お父さまとお母さまにごめんなさいとつたえて。わたし、上で皆に会えるまでまってる 』
「ああ、必ず伝えるよ。約束する。ゆっくりおやすみ、シャーロット」
『よろしくね、お兄さん。最後までありがとう』
そうしてシャーロットは目を閉じて空からの光に溶け込むように消えていった。
小さな身体を抱えて戻る青年。なぜか抱える上着や腕にぼたりぽたりと水滴が滴った。
いなくなった女の子はやっとお家に帰れました。




