泥縄式OJT (その三)
あほの子には身体に教えを叩き込むべし。
ストンブリッジ式訓練の成果が今、発揮されるのか?
トマスは呆然としていた。
パーシーを助けるつもりが敵に餌を与えてしまった。頭が真っ白で何をしてよいのかわからない。
そこへ弱々しい声がかかった。
「レーン! 用意!」
「はい!大尉!」
条件反射で応答する。
脳裏に『ぐずぐずすると死ぬぞ!』というストンブリッジ大尉の怒号が聞こえる。
「 MA-LE 、S-LD 用意!」
「準備完了!」
「 目標 ストンブリッジ!」
「了解!」
「投擲用意!始め!」
「了解!」
「GRD用意!目標 敵陣!」
「投擲用意!始め!」
「了解!」
気がついたら魔力回復薬と防壁魔道具をパーシーに向かって放り投げ。
手榴弾を奥のアンデッドに向かって投げていた。
脳筋は全てを解決するとはこの事か。
『うぬっ』
アンデッドと周辺にいたスケルトンが被弾し玉座もろとも爆散する。
物理攻撃は有効のようだ。
腹這いになって回避したパーシーは無事。トマスはほっと息をついた。
やっててよかったストンブリッジ大尉の軍事訓練。ノータイムで身体が動くようになるまで地獄だったな。
パーシーは早速、魔道具を起動させて回復薬を飲んでいる。防壁の上からガチガチと生き残り(?)のスケルトンが剣で攻撃しているが、しのげている。
「よくやった、トム!俺は回復次第、骨どもを壊す。お前はM-GNで攻撃だ」
「了解」
そうだった、銀は敵に有効だってヘンリーさんが言ってたじゃないか。なんで忘れてたんだろ。
そうだ、戦斧(ミスリル製)もパーシーに渡そう。
懐から銀弾を仕込んだ銃を取り出して残っているスケルトンの核を狙って狙撃する。
パーシーを覆う障壁を壊そうとしていたスケルトンは崩れ落ちた。
おっしゃ、この調子だ。
『我が眷属達よ、集まるのだ』
アンデッドの王冠の石が赤く光り、黒い煙が散らばっている骨に流れ込む。人型のスケルトンだけでなく羊や山羊のスケルトンも立ち上がる。その数、百を超える。マジか。
「おし、やるか」
パーシーは肩を回した後、戦斧でスケルトンを凪払い、物凄い勢いで破壊し始めた。トマスはアンデッドの狙撃を試みるがアンデッドを守る骨の群れに阻まれてしまう。
生きている羊や山羊は可愛いのにアンデッドを囲む骨はどうしてこうも不気味なのだろうか。
トマスは不吉な予感に焦っていた。
二人 対 百体以上。
いくらパーシーが人外じみていても体力に限りがある。銀弾だって無尽蔵ではない。
羊や山羊型スケルトンは頭を低くして次々と突っ込んでくるので狙いを定めるのが難しい。立ち上がって蹄で攻撃もしてくるので油断できない。
「パーシー、危ない!」
人型スケルトンの剣で天井の鍾乳石が槍の様に落ちていく。
魔力障壁を使っていてもアンデッドの強い瘴気で魔力は常より消耗しやすい。このままではジリ貧の未来しか見えない。
考えろ、考えるんだ、アンデッドの倒し方を。最適解を探しだせ!
体中の魔力が巡り身体中が熱くなる。一方で思考は冴えて加速する。
トマスの瞳が大魔法使いそっくりな金色に光っているのを本人は気づいていない。
全てがゆっくりと流れていく。
金色の瞳がスケルトン達が次にどのように動くのかを捕らえ黒い核を次々と狙撃する。
水路や水溜まりを避けて敢えてパーシーの攻撃を受けるスケルトン。アンデッドは水路から離れ自分の周りにスケルトンを密集させている。
その時、シャーロットの声が耳元でした。
『お兄さん、化け物は水が嫌いなの』
アンデッドが唸る。
『おのれ、小娘。まだ抗うのか!』
シャーロットの悲鳴が聞こえたが姿は見あたらなかった。
「パーシー、こいつら水を避けてるぞ」
「おお、なら骨は沈めるか」
パーシバルは人型スケルトンを担ぎ上げて水路に放り込む。
『~~ッ』
スケルトンは陸に上がろうとバタバタともがくが水路から抜け出せない。
思いついて、携帯用浄化装置を水路にいくつか投げ込む。水面に幾つもの白い光の波紋が広がっていく。
『ウギャア~ッ』
スケルトンの骨は白く光る水の中でバラバラになって流れていった。
ついでに敵陣に浄化装置を投擲。灯の魔道具も次々と設置し視界を確保。
こちらも物量作戦だ。
瘴気が薄れるにつれて動物型スケルトンは徐々に動きが鈍くなり、そこをパーシーに粉砕され骨は足蹴で水路に放り込まれていく。
(俺、水魔法苦手なんだよな。引き寄せならいけるか?)
『お前ら、避けろ!』
向かってくるスケルトンの頭上へ水路の水を浴びせかける。
『ギャア』
何体かのスケルトンは崩れたが。
「おい、トマス!」
「ごめん、パーシー」
コントロールが効かずパーシバルにも大量の水がかかってしまうし、思った以上に魔力を持っていかれる。駄目だった。
慌ててボーションで魔力補給。
「トマス、油断するな!」
パーシーがトマスへ突進するスケルトンへ向かって鍾乳石を投げて阻止した。だが彼の息も上がってきている。
ようやく半分のスケルトンが破片となって霧散していった。
(まだ半分残っている。魔力が持つかどうか。ここはお守りの出番か)
ミスリル製の剣を収納から取り出す。もう懐から出すという動作を省略している事すらトマスは気がついていない。
因みにこの剣、かつて勇者が魔物退治をした時に愛用した退魔の剣と呼ばれていた事などトマスもパーシバルも知らない。
『魔力を込めると簡単に浄化できるよ』
大魔法使いのアドバイスに従い、カタカタという剣にトマスは素早く魔力をこめていく。たちまち剣は白く輝きだし、周囲に光をばらまいた。その光に怯えてスケルトンが後ずさる。
『ああー』
光に触れた獣型スケルトンは悲鳴をあげて霧散し全滅した。
「パーシー、これでアンデッドを」
「おう」
パーシーが持つ剣の光にスケルトンは後ずさっていく。一振すると残った人型スケルトンも砕け散った。
(圧倒的だな、このお守りは)
残るはアンデッドのみ。
『小癪な。ろくに魔法も剣も使えぬ人間どもが』
アンデッドは生前はかなりの剣の使い手だったらしい。長身を生かし上段に構えた剣でパーシーに撃ちかかっていく。打撃は重く、あのパーシーが押されている。
パーシーもアンデッドを攻撃するが、攻撃するそばから王冠が光りアンデッドは回復していく。
二人、正しくは一人と化け物はつばぜり合いとなった。
『我は何年も何年も待ったのだ、復活し必ずや敵を、我を裏切った王家を倒す日を。忌々しき魔法使いに一泡ふかせる日を。
虫や獣の生命をすすり、霞のような魔力を吸い取りかろうじて長らえ、魔力無しも同然の人の生命と魔力をすすって力を蓄えたのだ。
いまさら、お前らごときに倒されてたまるか!』
血を吐くような叫びだった。
「だからと言って子どもを使って呼び寄せるんじゃねえ!薄汚い化け物が!」
アンデッドの剣をはねのけたパーシーの応えにアンデッドは眼窩をさらに赤く光らせる。
『ふむ、お前は子どもに弱いのだな。さっきもふらふらと呼び寄せられておった』
アンデッドの王冠が光る。黒い煙が紐の様に伸びていき、引きずり出される様にシャーロットが現れた。
(ある日の光景)
「よし、今のメニューを10セット!身体強化無しで!」
「なあ、こんなに過酷な訓練ってあるのか?」
「普通にあるぜ!俺がいた時の第一師団はいつも命がけだったぞ。うっかりすると簡単に死ねる戦時中だったからな!」
「有事の軍と一緒にしないで欲しい」
「パーシーくん、楽しそうだな」