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22章 最終決戦 ①

 かつて大陸はひとつの帝国に支配されていた。

 その名はカルデア、魔法により富み栄えた国。

 そこは魔力持つ者のみが君臨し続け、すなわちカルデアでは魔道士は完全に貴族と同義だった。そもそも魔力がなければ支配層足りえず、代々の皇帝じたい数多の魔道士の中からもっとも力ある者が選ばれるしきたりだったのである。その別名を魔道士の長と呼んだように。


 そう、魔力こそがあらゆるものの基準、富と権力を生み出す源泉だった。上流階級は精霊を自在に召喚し、世界に溢れるその力を思うがまま操った。

 まさしく、栄光と幻想に包まれた偉大なる魔法文明――その尽きなき栄華を知りたければ、後代に記されたおびただしい数の史書をひもとけばよい。そこにはいくらでも、古代の民のいと高き権勢とすさまじい蕩尽(とうじん)が描かれているのだから……。


 むろん魔道士たちの強大な力に立ち向かえる者などいるはずもなく、魔法国家によるログレス統治は300年以上続くこととなる。その黄金時代が終わるなど絶対にありえない、支配者のみならず被征服民ですらそう固く信じたほど、カルデアの隆盛はどこまでも完璧かつ至高を極めたのだった。


 一人の男が、ある日魔法に錬金術という名の大革命を起こすまでは。


 古代魔法、すなわち精霊魔法があくまで自然の理に従った、世界にあまねくみなぎる力を利用する技だとすれば、新たに生まれた錬金術はその範疇(はんちゅう)をはるかに超越した恐るべき技だった。それは精霊とその具現化たる物質自体を自由に変成できる、言い換えれば世界そのものを作り変えることさえ可能な、まさしく神の御業(みわざ)にも等しき魔法だったのだ。


 精霊すら抗うことできぬ、真理の秘術。

 

 古代末期、こうして錬金術は大陸中へ瞬く間に広がり、人々はついに帝国を打倒できる力を手にする。それはまさしく運命の転回点(ペリペティア)、一度生み出されてしまった時代の変化は、たかが人のわざごときで到底(こう)せるものではなかった。

 あれほど繁栄を極めたカルデアですら、押し寄せる反乱の嵐の前に滅び去るのは必然だったのだから。


 各地に轟き渡る軍靴と勝どきの声。

 わずか数年で、あっけなくカルデア帝国は業火の中に消えた。


 ……かくてその時帝都目指す指導者が手にしていたものこそ、物質を変成する究極物質、賢者の石に他ならなかったのである。


 ただしそれはいまだ未完成な、とても完全体とは言い切れぬものだった。変成は確かに行えるが、しかしそれぞれごく限定された能力しか持たなかったのだ。自在に変換を操るなど、まだ到底無理な話である。

 だがそれが強力無比な武器となるのもまた事実で、帝国滅亡後きたった動乱時代、大陸各地に乱立した諸侯は、賢者の石をとにかくいくらでも手に入れようと躍起になった。いわば力の証とでも言うべきか、石の奪い合いはこの時代を通じて際限なく続いていく。

 まさに静謐たるカルデア時代とはあまりに異なる、血で血を洗う戦乱の世の到来であった。


 そう、そしてこの時代にいくつも作られた不完全な賢者の石こそが<グリアモスの石>――野心溢れる群雄たちの力の象徴。

 彼らは石を手に、覇者への果てなき道をいつまでも夢見ていく。

 100年の長きにわたる間ずっと。


 ――時は下って新王国時代に入り、ヘルメス教会は総力を挙げて長年石の探索・回収に励み続けるも、いまだ大陸にはこの無数の強力兵器が発見されることなく静かに眠っている。

 金や労力を惜しまず石を追い求める者など、当然いくらでも存在するのだった。


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