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伽藍堂の生、炉に焚べる心

作者: 板目御半

私は食うに困らぬ生活をし、偶に釣りをして娯楽に富んだ田舎の小金持ちの家に生まれた小餓鬼です、物心ついた頃より、この言葉を知ってより息苦しい、いや生き苦しいのです。

 そのうち私は生における二ツ目の勤務地に通うようになり、「個」、これの物寂しさ、只之に恐怖する様になりました。

クラウン…これに尽きるのです道化を演じれど泣くことは許されずひたすら笑い笑わせる、そうせねば生きられぬのです、そのうち他からの評価は異質となり、自己からは疎外感を感じ内外問わず孤独、虚ろ、それでいいのです、打楽器は空がなければならぬでしょう?

 そして暮らした幾星霜、此れにおいて私は口にするのも烏滸がましい「はつ恋」を見出しました、はつ恋それこそ失恋に至る病なの彼女(以降便宜上Kと呼ぶ)は中1の時のクラスメイトだった、割とよくKと話していたのを今でも鮮明に覚えてるよく考えたら年頃の女子と話す内容じゃなかった気がしたが気にしないでおこう、兎に角話しているうちに僕はおそらく深層心理の中で好きになっていたんだろう。

そして中2になった時いきなり好きな人はいるかと聞かれた、咄嗟にその時よく話していた女子の名前を伝えてしまった伝えてしまったのだ、俺はこの時からその女子(便宜上Tと呼ぶ)のことを好きな振りをし始めた、俺は…なんて阿呆だったんだ…まぁ自己嫌悪は後にしておいて当時もう道化としての俺は出来上がってて自分を自由に扱えるキャラクターのように使っていた俺は、この好意をKになんとしてもバレまい俺が好意を抱いているのを気取られたら折角楽しいこの生活が終わってしまうのでないかと考えた、だから俺は全身全霊でTの事が好きだと設定づけて常にエチュードをしていた…それなら良かったんだ。

流石に好きだと演技し続けるのに告白しないのはあまりにも怪しいと思った俺は1つの区切りとして告白する事とした、当たり前にふられたがコレで良かったと俺は思っていた、けれどKは落ち込むなまだチャンスはあると言った、だからその時気づいたのだ魂がすり減るのを。

嗚呼!俺はなんと間抜けだったんだ!あの時俺が小心だったから!演劇の幕を下ろせなかったから!この好意は2度と!もう伝えられないだろう!矛盾しているのは重々承知だけれどこの好意だけはパンドラに仕舞い込んだこの好意だけは本物だったのだ、だから俺はこの好意に再びもう開かないように固く封をしたのだ。

そして時は流れて高校入学、ここまで順調に進んでいた中3の時もかなり仲良く過ごしていた、好意以外は本音で話せるようになっていた、高校入学から一月経たない頃私は元々軟弱だった精神を病んだこんな澱み(よどみ)誰にも打ち明けられない…そう思っていた、死にたい思いは逃げられぬ澱みは一体どこまで俺を引きずり落とすだろう。

夕暮れの鐘がなった、手に重みのない金槌があることに気づいた何かを砕いた形跡はなく、また誰かを殺した感触もないだが物を砕いた感触だけがある。

また鐘が鳴った、木の破片を手に持っているそうか…そうかコレは俺のパンドラの屑か…

あぁ…気付けば俺はKに連絡をとっていた、久方ぶりの安らぎがそこにはあったKが親帰って来たから切ると言った時俺は最後に一つだけ聞いてくれと言い「好きだ」と伝えた。

ただ付き合ってくれとは言わなかった、いいや言えなかった俺にそんな資格ないと思ったからだ。

破られた初恋になんの意味があろうものか、それはさらなる空虚をもたらしました、そしていつしか息をすることすら忘れそうなほど伽藍堂になってしまったのです。

 腹のなるほど空かしたならカツレツなど、腹を下してしまうでしょう腹は拒絶するでしょう、空虚を孕んだこの身の腹は遂に"生存"これを好中球の対象としたのです、腹が立って仕方ないのです、嗚呼!我が丸々と肥えた恐怖心!之により私は生存そのものをアレルゲンと判を押すのです。

 悪夢を見た、顔のない人を友人とし信頼したころ背が熱くなり目が覚める。丑頃に目が覚め丁度いい、日課の紅茶を飲む、いくつか積んだ茶葉の箱からアールグレイをひとつ取りチェリーボンボンをふたつ手に取ってマグカップに湯を注ぐ、菊も山も無く紅がありされど鶯は鳴かず自己がかすである事を思い出し茶に塩気が増した。

十つ年を重ね一となり、されど詩人の鶴月華に六つ劣り我が浅はかさを知り哀しみ、半世紀過ぎれど詩人たれとも成らず我が生の安さを知る、継戦せれども二つは足らず足掻きの無為を感じる。

つらつらと連なる言の葉もまた彼岸の花を咲かせ虚無の果実を成し輪廻の種を落とし絶望の芽を咲かす、上がらざるものとせれど下るもので無く下れど絲を垂らさんと茨を下ろされ暴るるを許されず棘が活を吸い生き地獄、言の葉から禍に生けど自我は辞すること知らず胡蝶は自己の夢を覚ます。

胡蝶はしがらみを捨て生きるものだった、夢だったまた目を覚ます。

胡蝶と成る

目を覚ます

………

………

夢だった、目を覚ました、顔のない人をはつ恋と称していると背を開かれて飛び起きる…私はまたマグカップを用意して紅茶を飲もうとしたが全ての箱が空だ、棚から出したマグカップからは虚を飲むには至れなかった、紅茶を飲みすぎて茶渋の沁みたカップに私は白湯を注ぐ、己を変えてついていき未だ晴れぬそれは久方ぶりの純粋さを取り戻しました、下卑て言うのなら一片の安心、いつか誰かに言われた「人でいるなら空白にこそ自己を見出す。」これに自我の破片が取り憑かれた啓蒙は瞳の中に閉じこもっている。

我が脳に食い込んで今開眼せんとするこの瞳、呪詛の溜まりとなるこの瞳、今喰らわんとしているこれに…ブチ…ブチ…グチュ…ジュル…ジュルル…

目を覚ました、私はまだ脳を、膿を、瞳を喰らってはいないようだ…白湯を飲む、ふとカップの中に私が映る、あゝ我が心を、このクズで虚で仄暗い我が心を我が独白を聞いてくれるのか!

私ってのは本当に駄目で全て忘れてしまう、記憶からで無く心から忘れるんです虎やら馬になる事は残れども他は全て…無為。この腐り切った性根を叩き直せはしないのです、叱れど蔑もうと泣き落とそうと全て無為、伽藍堂の心には響かず如何にも感嘆し悔いるかのように眼を潤ませるか敵意を隠しきれぬ未熟な半小人と楽々烙印を押させる、此れに尽きます。これは私にどうしようも無い孤独を植え付けられました、この世に心に響く言葉などありませんこの世に感動する景色などありませんこの世に…未練などありません下らない生き方これは生きていないんです息苦しいのです…はぁ、だからなんだというのだ私は私を貶してもう一度白湯を注ぎ入れ明け始める前の静かな星空を見つめ、我が苦悩、我が煩悩、我が…醜さを呪いそうしてカップを掲げ、

「もう一杯、伽藍堂を埋め尽くすまで、私は独白も恋文も死ぬるその日まで、いや終わる頃に恋慕も懺悔室のカーテンも幕を下ろす決断を下す。」

この爛れた心を潤せるとは思えんが赤い、黒いこの腐敗を食い止めてまだ死なぬよう祈り私はまたカップを伽藍堂で満たし直す。

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