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流離少女  作者: 雛上瀬来
第一章 クイニーアマン地区・邂逅編
9/42

1-09 VS初心者殺し①

2024/10/7

細かな加筆を行いました。

ミルフィとスキールの台詞の細かな変更を行いました。

ビューニの台詞を一部修正しました。


2024/3/17

細かな修正を行いました。



「ちっ、逃げられたか……!」

「だったらせめて、ミルフィちゃんだけでも確保するっスよ!」

「そうだな。面は割れていることだし、名前だって知られている。ここで易々と逃しては、我々も今後の活動に支障を来す。早い所片を付けて、さっさと向こうも追わなければ」

「ねぇ」


焦りを見せる3人にかけられた小さくも冷たい声は、3人が肩を震わせるには充分だった。


ミルフィは一息入れて、剣先を目下に落としながら神妙な面持ちで続けた。


「……どうしても、戦わないといけないの?」

「……ああ。どうしてもだ」

「どうして?」

「どうしてって、そりゃあ……さっきも軽く話はしたが、明日生きて行く泡銭の為だ。それ以上でも、それ以下でもない」

「他にやりようはいくらでも……」

「……もう戻れねえ。引き返せないんだよ、ミルフィ。それが本当に最善の選択じゃないことくらい、冒険しか取り柄のないような、大馬鹿なオレ達だとしても、それくらいは心得てるつもりだ」

「なら……!」


何でこんなことを、とミルフィが言い終わる前に、サコーラスからの剣戟が飛んだ。


ミルフィは咄嗟に大剣により受け止めようとするが、疲労が積み重なった結果、その大剣本来の重量による反動により軸が僅かに()()た。


「やばっ……!」


想定外の軌道に咄嗟に顔を横に振った甲斐あって、ミルフィ自慢の桜色の髪が少しだけ舞ったが、直撃は免れた。


(これ……やっぱり重たいぃぃ……!)


父親から譲られた業物の一品であるが、今のミルフィには満足に使いこなせられない為、長時間の運用は不可能に近かった。


苦悶の表情を浮かべるミルフィに、スキールは頭をかきながら、


「だが……こんな落ちこぼれのオレ達にだって、戦う理由があるってこった。大人しくクレアと一緒に投降してくれれば、これ以上は手を出すつもりはない」

「……随分身勝手なんだね。それで大人しく好きにして下さいって投降する人なんて、きっといないよ」

「は、それもそうだな。オレもきっとミルフィと同じ立場なら、まるきり同じ台詞を吐いてるだろうよ」

「なにそれ」

「俺達の目的はお前達の生け捕りだ。それがギルドからの仰せでな……それに失敗すれば、オレ達もタダじゃ済まない」

「……そんなよくわからないギルドなんて、さっさと抜ければ良いのに」

「抜けようなんて考えりゃ、それこそ何されるか分からん」


それはそっちの都合でしょ、とさしものミルフィも頬を膨らませて反抗する。


クラッカー……父から聞いていた通りではあるが、ミルフィの想像していた数倍以上、危険なギルドのようである。


「自分の保身の為に私とクレアを狙うなんて……それに、私はクレアと約束したから。尚更絶対、ぜーったい。引けないよ」

「……なら仕方ないな」

「それから……もう1つだけ、いい?」


と、言い終わるが早いか、ミルフィは人差し指を立てる。

これだけは、どうしても直接本人に確認したかったことだ。


「スキールさんが言ってた……緑色の髪の子の話も、口から出任せ?」


そう。

ミルフィは決して魔物を倒した時のドロップ報酬や、パーティーとしての立ち回りを学びたかった訳ではない。


そんなことよりも、彼女からすれば自身を助けてくれた恩人の探し人である『緑髪の少女』の真偽の方が重大だった。

この話すらも嘘である、ということになれば、ミルフィはただただ無駄足を踏んだことになるからだ。


それでも、クレアだけは強欲深い差し迫った魔の手から逃がせることが出来た。

これだけが、ミルフィにとっての幸いな出来事である。


「……その話は紛れもなく本当だ。実際、暫くの間カタラーナと組んでいたし、ここへ向かったまま行方知れずって言うのも、事実そのものだ」

「……」

「だが、1つ勘違いしないで欲しいのは、オレは別に身銭を切ってまでして、カタラーナを探しているわけではない、ってことだな」

「どうして? 大切な人だったんでしょ?」

「確かに、印象に残る奴ではだったが……特別仲が良かった訳じゃない。オレと手を組んだのも、他に何かのっぴきならない理由でもあったんだろうよ。それに、アレだけの才に恵まれた奴だ。きっと今頃何処かのギルドにでも勧誘されて、宜しくやってると思うしな」

「……そう」


と、ミルフィは相槌を入れながら項垂れた。

結局、何の手がかりも得られないのか、と肩を落とす他無かったのだ。


「……と、長話しすぎたな。お前を確保して、クレアを追いかけさせてもらうぞ」


これ以上の話し合いによる和解はお互いに不可能。衝突は不可避である。


一方は、これ以上誰にも傷つけない為に。

一方は、自身の金策と安全の確保の為に。


両者、一歩たりとも譲れない戦闘が始まろうとしていた。
















『さて、ミルフィ。基本の動きが大分形になってきた所で、今日から本格的に対人戦を意識したトレーニングを始めてみようか』


『対人戦?』


『そう、将来ミルフィが冒険家を目指していく以上は、きっと避けては通れない道になるだろうからね』


『……人と人同士が戦うなんて……』


『ない、って心から言い切れるかい?』


『………』


『現に僕とお母さんは既に何度か戦っているだろう?ミルフィも見てきたはずだ』


『……うん。お父さん、毎回コテンパンにやられてるよね?』


『……も、勿論僕は手を抜いているけどね。女性相手に本気で手をあげるなんてとても。僕は紳士だからね」


『でもこないだ、大切に取っておいた食後のデザートを食べられて、お母さんが爆発して納屋一軒まるごと吹き飛ばした時、地面にこれでもかってくらい頭擦り付けてたよね』


『…………、……ミルフィのお母さん、尋常じゃないくらい強いからね。ミルフィも将来、何れはああなってしまうんじゃないだろうかと、僕は今から戦々恐々としてるよ』


『そ、それは大丈夫だと思う……』


『……こほん。話が逸れたけど、冒険家が戦うのは何も魔物に限った話じゃない。むしろ、人間というのは、下手すれば魔物より恐ろしい存在だと畏怖しているよ』


『え、何で?』


『人間みんな、話し合いで解決するなら戦争なんて起こらないだろう?魔物とは違い、会話が成立するからこそ、逆に争いの火種を生むことだってある。ただの銅貨1枚のお菓子1つで、そこはもう地獄(インフェルノ)の完成だ』


『割と根に持ってるなぁ……』


『僕とお母さんはこれでも正式な夫婦だからこそ。こんな形でも愛を誓ったからこそ、首の皮一枚で和解出来る。けれど、他人同士ならそういう訳にはいかない。最悪、無意味な殺し合いへ発展することだってあるんだ』


『……お菓子1つで?』


『……人同士の喧嘩なんて、ほんの些細な食い違い1つで起きるものだよ。話し合いだけで問題解決が出来るものなら、勿論それに越したことはないだろう。けれど、絶対にそうならない場合だってある』


『……例えば?』


『ミルフィの命を狙う輩、とかね』


『……わ、私を?』


『広い世界だ。いつの間にか、知らず知らずのうちに恨みを買い、誰かに狙われる……なんてこともあるかもしれない』


『…………』


『そうなった時用の対人戦闘だよ』


『……ちょっと、怖いかも』


『そうだね。だけどミルフィ。僕としては、ミルフィにはお父さんのようにはなって欲しくはないんだ』


『……?』


『お父さんはね、これまで色んな人と戦ってきた。活躍している僕が気に入らないからと、それだけの理由で殺意を剥き出しにしてきた冒険家仲間の連中や、人を騙す悪い人も皆同様に……だけど、そうじゃない』


『………』


『ミルフィには、()()()()()()()為に戦って欲しいんじゃない。()()()()()為に戦って欲しいんだ』


『守る……』


『ミルフィがもっと大人になれば、心から信じられるものや、信じたいと思える人が目の前に現れると思う。その守りたい〝何か〟の為に、戦うんだ。『力』とは本来、そうあるべきだ。『力』に溺れ、慢心し、驕り、油断し、有り余らせた人間を僕は何百と見てきたけど……殆どロクでもない末路を辿ってしまったよ。ミルフィには、少なくともそうなって欲しくはないんだ』


『……うん』


『だから、僕があくまでミルフィに教えるのは人を倒す方法じゃなくて、護身術に近い。いつかは自分自身の手で、きっと大切なものを助けられるようにね』


『分かった。私、頑張ってみる』


『その意気だ。さて、まず最初にミルフィが覚えなければいけないこと、それは──────』



第9話読了お疲れ様でした。

ミルフィVS初心者殺しの結末は……!?


次回が待ち切れないぜ、という方は評価感想など是非是非お待ちしております。

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