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流離少女  作者: 雛上瀬来
第一章 クイニーアマン地区・邂逅編
8/42

1-08 最奥到着、しかし……

2024/10/4

細かな修正を行いました。


2024/3/17

細かな修正を行いました。


マラサダの森、最奥。


それこそ昔はライオンの頭に山羊の胴体、大蛇の尾が生えた合成獣(キマイラ)のような生物が森の『ダンジョンボス』として猛威を奮っていたようだが、数年程前に有志による討伐パーティーにより殲滅されて以降、そういった存在は確認されておらず、ただの開けた土地に成り代わってしまっている。


平たく言うと、その道中にもレベルが少しばかり高い魔物がいる程度で、探索するには比較的安全なダンジョンとなっている───はずだった。


「だから、アイツ(カタラーナ)が魔物か無法者か知らんが、そんな簡単にやられるなんて思えない……ってな」


と、道中スキールは悔やむように呟いた。

一部始終を聞いたミルフィも確かに、と不思議がった。


実力はスキールよりも遥かに上、Cクラスに届きそうだったという彼女、カタラーナがみすみす死んでしまうというのは正直考えにくかった。


実際此処まで、スキールやサコーラス達に守られながら進んでいるとはいえども、ミルフィ、クレア共々ノーダメージで到着している。

だが、小型ながら強力な毒性を持つホーネットや、目標に向けて只管に突進してくる(ボア)など、有害な魔物も数多く生息している為、先程のミルフィ達のように囲まれて多勢に無勢となってしまった……という、最悪の事態も考えられるが……


「結局、何の情報も得られないまま、一番奥まで来ちゃったけど……」

「……そうだな」

「……、これからどう─────」


するの、とスキールに向けてクレアが言葉を紡ごうとした、まさに瞬間だった。





()()()、とクレアの真横から、鋭利な風が吹いた。





クレアが()()が自分自身へ向けられた《刃》だということに気が付いたのは、1回り早くに察知していたミルフィによって、瞬時に持ち武器である大剣で防がれた後のことであった。

その発生源は、


「ほう、今のを止めるか……!」

「一体何を……!!」


サコーラス・ドライハーディ。

ミルフィやクレアと共に、同行していたはずの剣士である。


突然の凶刃に驚愕を隠せないミルフィに目掛けて、更にこれ幸いとばかりにすかさず二の矢が飛んだ。


「────パワー・アックス!!」


2人に向けて大きく振り下ろされた渾身の一撃。


ミルフィはサコーラスの剣撃を1度大きく跳ね返(パリィ)し、クレアを庇うようにして後方へと跳躍する。


その巨体から放たれた大斧は、勢いそのままに地面へと衝突し、砂塵を舞い上げ、亀裂を走らせる程の重たい一撃であった。

もしあの一振りを躱し切れずに正面から直撃していたなら、場合によっては怪我などでは済まなかったかもしれない、とミルフィは戦慄した。


しかし、それは対峙していたサコーラスも同様だったようで、


「おい、貴様俺ごと巻き込む気か!? 俺共々殺す気なのか!?」

「し、仕方ねえだろ! 結局当たってないんだからノーカンだ! おい、ドーグ!」

「了解っス!」


何かを言い争っている声は遠くからでも聞こえたが、今のミルフィ達にしっかりと聞き取れる程の余裕などはない。


更に、次ぐ第3の攻撃は既にその手から放たれていた。

着地を狙って射たであろうその一矢は、クレアの右頬をふわりと掠って背後の大木へと突き刺さったのだ。


ひっ、と小さな悲鳴を出すクレア。


あとほんの数センチでもずれていたら、確実に皮膚を貫かれていたことだろう。

ミルフィは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたまま、スキール達に剣先を向ける。


「……何するの。もしかして私達を殺すつもりだった? それとも、そういう趣味だったり?」

「まさか、殺すつもりは無かったさ。折角売れば高値になりそうな女の子なんだからよ。あと、オレにそんなアブノーマルな趣味はない」


冷徹な一言に、ミルフィは目眩を覚えた。


最初から、自分達を金儲けの為の道具としか見られていなかったということに、衝撃を隠せない。

クレアはカタカタと身体を震わせながら、彼らから何歩か距離を取る。


「……嘘。そんなの、何かの……間違い」

「悪いが、間違いでも何でもねぇ……こっちはあくまで真剣だ」

「ど、どうして私達を……?」

「……それは、俺達が『初心者殺し(ニュービーキラー)』だからだ」


初心者殺し(ニュービーキラー)

否、ミルフィには全く聞き馴染みのない単語であった。


もしかすれば、警邏隊(ガーディナー)のトップであるビューニであったら、何かしら知っていたのかもしれない。

クレアの方を振り返ってみるが、クレアも「知らない」とばかりに首を2度小さく振った。


「聞いた事ないっスか……まぁ、もし仮に存在だけでも知ってたんなら、こんな単純な嘘に騙されないっスよね」

「ま、簡単に言えば、右も左も分からない初心者の冒険家を、人気のつかないような場所まで誘導して、武器やアイテム類は元より身体まで売り飛ばす……なんてことをやってんだ」

「"()()()()()"……俺達のギルドの方針でな。悪く思うなよ」


ゾクッ、と背筋に冷や汗が伝った。


クラッカー、という名前自体ならば、度々ビューニから話題として聞かされていた。

自分らの利益の為ならば、どんな犯罪行為でも容赦なく実行する冷酷な凶悪ギルドであると。


それが、先程まで仲睦まじく談話していた彼らが所属しているなどとは、到底考えられなかった。


(スキールさん達……さっきの一撃、明らかに手加減していただろうけど……本気で私達を……)


ギリリ、と音を立てて奥歯を噛むミルフィ。

そんな彼女の様子を見て、ドーグはヘラヘラと悪い笑みを浮かべて、


「いやぁ、ほんと絵に描いたようにまんまと騙されてくれたっスね。オヒトヨシなのは好感度高いっスけど、もう少し警戒しないと兄ィ達みたいなのに都合良く搾取されるだけっスよ? 知らない人にはついて行ってはいけませんって、良く言うじゃないっスか」


決して悪びれようともしない彼の態度に、ミルフィは恐怖心よりも敵愾心を覚えた。

ミルフィはいつもよりも低いトーンで、クレアに向けて話しかける。


「クレア」

「……な、なに……?」

「クレアは、森の入り口に常駐してる警邏隊(ガーディナー)の人を何人か、ここまで呼んできてくれないかな」

「でも、それじゃミルフィが……」

「どの道私達だけじゃ勝てない。でも、時間稼ぎくらいなら出来るから、私を信じて。絶対誰も死なせないから」

「……………っ」


暫く迷っていた様子のクレアだったが、頷くミルフィを一瞥し決意を固めたのか、後方へ向かって走り出した。


だが、無論簡単に逃してはくれない。


「逃がすかっス!!」

「やらせな、いっ!」


ドーグがクレアに向けて2射目を放つも、動きを完全に読み切ったミルフィによって、矢ごと明後日の方向へ大剣で弾き飛ばされる。


「げぇ!?」

「……こいつは、なかなか厄介そうだぞ」


初心者を名乗る少女に、目視で自慢の矢を防がれたことに驚愕するドーグとサコーラス。

そんな彼女の心情は、たった1つの使命感で燃えていた。





────ここから先は、私の命に換えても何が何でも通してやるものか、と。











「これで……終わりっ!」


一方、不意の事故により総勢12匹に及ぶ多数のホーネットに襲われていたラミィは、辛くも勝利していた。


ホーネット自体、個々では大した能力は持ち合わせていないのだが、非常に厄介だとされているのは、基本的に群れで行動する習性の為、戦闘時は必ず数匹と相手せざるを得ないという点と、ホーネットが対象に齎す『状態異常』にある。


特徴はホーネットの色彩にあり、赤色なら火傷、紫色なら毒、青色なら凍傷……といった感じに判別可能で、ラミィが対峙していたのは黄色、つまり麻痺(スタン)付与のホーネットだ。


無論ラミィも五体満足では倒せず、何度か麻痺を受けてしまっていた。

ポーションを飲みつつ、ドロップ品の〝イエロー・ホーネットの針〟を回収しながら、近くの木にもたれかかり安堵と焦燥の息をついた。


(し、しまったぁ……完っ全に見失った……!)


げんなりと肩を落とすラミィ。


自らに迫った脅威は何とか撃退することが出来たが、ラミィの目的はホーネットを討伐する事ではなく、ミルフィを心配してここまでやってきたのだ。

その肝心のミルフィを見失っては、本末転倒である。


(このまま道なりに進めば森の奥に着くけど……どうしよう……でも折角来たんだし、無事だけ確認したら適当にモンスターでも狩って帰ろっかな。うん、そうしよ……ん?)


と、早速実行に移そうと考えたところで、何処かで見覚えのある少女が遠くから走ってくるのが視界に入った。


(あれは確か、ミルフィと一緒にいた……?)


顔全体を覆い隠すような黒い帽子。


落とさないよう小さな手にしっかりと握られた杖。


よく見ると、何処かで転けてしまったのか、砂や泥があちこち付着しており、頬からは微小ながら出血もしており、息も絶え絶えだ。


……なんだか、嫌な予感がする。

本能的にそう感じたラミィは、思わずその背中に話しかけていた。


「ど、どうしたの?」

「……っ!?」


ラミィの声に足を止め、弾かれたように振り向く少女。

その藍色の瞳は涙に濡れ、恐怖の色に染まっているように見えた。


「わ、脅かしてごめんね! 私、さっきのピンクの髪の子の友達の、ラミィっていうんだけど……」

「……ミルフィの……? 〝()()()()〟の仲間じゃ、ない……?」

「ん、うん……? 違うよ」


目の前の少女を見据えるクレア。


そこに敵意や殺意などは毛頭ない。

それどころか、あまつさえ自分を心配そうに覗き込んでいる。

クレアは呼吸を必死に整えながら、眼前の灰髪の少女に向けて、言い放った。





「助けて……! ミルフィを、助けて!」





「──────」


一瞬、ラミィの身体が強張った。

その縋るような必死な瞳からは、ミルフィに何か良くないことが起きてしまったことが容易に感じ取れる。


渦中の外であるラミィ自身も思わず、語気が荒くなってしまう。


「ミルフィ……!? ミルフィに何かあったの!?」

「……実は……」


順を追って話し始めるクレア。


ミルフィとクレアは、3人の男達に唆されて森の奥地まで誘導されてしまった、ということ。

そしてその3人が『初心者殺し(ニュービーキラー)』として、世間を騒がしている犯罪グループの一味であること。


また、現在進行形で自分をただ逃す為に、ミルフィが単身で時間稼ぎを担って戦っている、ということを断片的に聞いたラミィは、頭を抱えながら溜息をついた。


「かはぁ……っ、案の定かぁぁぁ……私がついていながら……」

「そういえば、ラミィはどうしてここに……」

「……協会の前で明らか怪しい3人組と組んでたみたいだったから、ちょっと心配になって、ね…………って、そんなこと話してる場合じゃないか。早く行ってあげないと」


今こうして悠長に話している間にも、ミルフィが懸命に彼らを足止めしてくれているはずだ。

そうと分かれば、1分1秒でも時間が惜しい。


「えっと……」

「……クレア。クレア・エリゴール」

「クレアはどうする?」

「わた、しは……ミルフィに助けられたから……だから、今度はクレアが助ける番……」

「……ん、分かった。聞くところだと3人だけみたいだし、私だけでも大丈夫そうだけど……1人でも注意を引いてくれれば、後は私が何とかするから」

「が、頑張る……」


ラミィの頼もしすぎる言葉に、クレアはこくり、と頷いた。


「私は少し先に行くけど、大丈夫?心配なら先に体力と魔力用のポーション、渡しておくけど」

「……だ、だいじょうぶ。何本かなら……待ち合わせ、あるから」

「そう? 分かった、それじゃ────」

「あ、あのっ、ラミィ」

「ん?」


目の前の大木を軽々と登っていく背中に反射的に声をかけた。

これだけ木々に覆われた森だ、下を道すがら真っ直ぐ走って行くよりも、木から木へ飛び移って向かった方が、疲労を減らしつつ素早く移動出来ると踏んだのだろう。


クレアは少し悩んだ様子だったが、やがて、


「……ありがと、ね」

「………ん、こっちこそ」


かくして、しがない短剣使いと訳アリ魔法使いによる『ミルフィ救出作戦』がここに決行されようとしていたのだった。


第8話読了ありがとうございます。

いよいよ第1章ボス、「初心者殺し」との直接決戦となります……!

果たしてミルフィ達は勝利出来るのか────?


その続きが気になった!と言う方は是非、評価感想などなど、お待ちしております。

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