1-07 いざ、マラサダの森②
2024/10/4
細かな加筆を行いました。
誤字を修正しました。
2024/3/17
細かな修正を行いました。
☆
マラサダの森。
以前は、貴重素材である金鉱石などのレアアイテムも度々有志の手により発見され、冒険家や収集家で賑わっていた『ダンジョン』の1つであった。
しかし、その内盗賊や鉱石狩りの輩どもの手によって、鉱石は殆ど取り尽くされ、必要以上に魔物が狩られた結果、鉱石の枯渇は免れず、現在では完全に廃れた森へと化してしまったのだ。
稀に、街へ甚大な被害をもたらしそうな中級魔物が姿を現す程度であり、マラサダの森での魔物討伐や、アイテム収集などの依頼は全盛期と比べると、めっきり激減してしまった。
そんな悲しい逸話があるマラサダの森であるが、それでも魔物の類は通常の森よりも倍ほどは多い。
それもその筈、定期的に冒険家が訪れなくなってしまった為、魔物を狩る人材が、偶に覗きに来る警邏隊くらいしか居ないのだ。
その為────
「くそっ、魔物が多い!」
「どうするっスか、兄ィ?」
「囲まれる前に強引に突破するしかないな……ミルフィ! クレア! はぐれないようにしっかり着いてこい!」
久々の人間の匂いを嗅ぎつけたかと言わんばかりに、スキール一行は鬱蒼とした森の中を探索中、大小様々な野生の魔物に囲まれつつあった。
その数にして目視でも30余り。
猪突猛進とばかりに突っ込んでくる狼型モンスターや猪型モンスターを倒しても、戦闘の『音』につられて向かってくる新たな魔物が、その行く手を塞ぐ。
「ちっ……仕方ねぇな……お前ら下がってろ! 1番槍もとい1番斧で突っ込む!!」
言うが早いか、大斧を空に掲げて数回振り回してから、そのまま魔物の群れに向けて上から下へと振り下ろした。
「パワー・アックスッ!!」
その巨体から放たれた渾身の一撃は、言ってしまえば直線的な攻撃ではあるが、魔物を葬るには十二分ともいえる火力であった。
目の前を塞いでいた数体のモンスターは、悲鳴すらあげる事を許されずに塵芥となって消滅したのである。
「ネーブル・スクエア!!」
残存した魔物を、サコーラスが穿つ4連撃技で更に削り、その攻撃で出来た隙間を縫うようにしながら、極力無駄な戦闘を避けていく。
「そっちに行ったぞ、露払いを頼む!」
「な、何とかする!」
「任せるっス!! その距離は逃さないっスよ!!」
「頑張る……!」
先程までの言い争いは何処へやら、あれだけ大勢の魔物を3人+ミルフィとクレアの連携を以て、次から次へと薙ぎ倒して行く。
スキールが大斧で前衛を請け負っている間に、サコーラスとミルフィが協力して削り、怯んだ所へドーグとクレアの遠距離組が矢と魔法を撃つ。
(これが、連携……)
決して完璧だとは言えないが、今日のみの突貫で組んだパーティーにしては、隙のないような動きである。
それから魔物の群れを倒し続けること数分、漸く落ち着いた所で、少しの間周囲にいる魔物に気を配りながら休憩を取っていた。
すると、つい先ほど朴念仁だと不名誉な紹介をされていたサコーラスが、ミルフィに話しかけた。
「ミルフィ、お前さん思った以上に動きが良いな。本当に初心者か?」
「……昔からお父さんにそこそこ鍛えられてたから、これくらいなら動けるよ」
「遠くから見たままの意見だが、とてもじゃないが初心者とは思えん。きっとミルフィの程の戦闘技術があるなら、いつか俺たちに追いつくのも時間の問題だろうな」
「そ、そうかな……」
父以外に褒められていないミルフィは、そっと視線を逸らした。
スキールも同意見だ、とばかりに首を2度縦に振って、
「クレアにしてもそうだ。ぎこちないとはいえ、魔力の操作やコントロールなんかは、その辺の魔法術師よりも長けているように思える。あくまでオレの感覚ではあるがな」
「まだ、『炎』くらいしか……満足に扱えない、けど」
「最初はそれでいい。自分だけの長所を伸ばして、自信に繋げていくところからだ。オレが思っている以上に、この2人は将来"化け"るかもしれんな。有望株だ」
「それは……俺っちも負けてらんないっスね!」
「……いやまぁ……やる気に水を差すようで悪いんだけどよ、お前はまずあの地獄みたいなノーコンプレーをどうにかしろ。たまに横腹に刺さるんだよ、お前の矢が。さっきもミルフィに突き刺さりそうな勢いだったしよ」
と、スキールから釘を刺されるものの、ドーグは「出来ないものは出来ないっス」と開き直っていた。
ちなみに例のドーグからの攻撃は、ギリギリ半身で躱すことが出来た。
何故避けれたかは、長い間培ってきた持ち前の反射神経の賜物なのだろうが、実は当人であるミルフィ自体もよく分かっていない。
さて、とサコーラスは鉛色に煌めく片手剣を鞘にしまいながら、
「そろそろ最奥に着く。最後まで油断しないようにな」
と纏めるのであった。
☆
(よしよーし……バレてないバレてない)
そんなミルフィ達の動向を、遠く離れた木陰からこっそり見守るラミィ。
ラミィは隠伏能力に長けており、意識しなければ目視することが容易ではないほどにまで磨き上げられている。
元々は、対魔物対策になればと、幼少の頃より訓練してきた賜物なのだが、よもやこんな形で役に立つ時が来ようとは。
……それにしても。
(……なまら怪しいと思ってずっと後を尾けてきたのはいいけど……私の杞憂だったのかなぁ……?)
ラミィの眼には、森の中へハイキングへ出かけるが如く終始和やかな雰囲気が広がっており、とてもではないが、物騒なこととは全く以て無縁そうな風景だった。
(ん……まぁ中には初心者を気遣って、一緒に同行してくれる優しい人もいるか……)
これ以上身を隠しながら追っていても、最終的には徒労に終わりそうだ、と踵を返そうとした時、
(……ん?)
ゴスッ、と足元に何かが当たった。
まるで枯葉や落ち葉の塊を蹴り飛ばしたような感覚に、ラミィは反射的に目線を下に落とした。
そこには、枝葉などとは最も程遠い、ハニカム状の魔物の巣があった。
(げっ……ホーネットの巣!? 何で地面に落ちてるの……!?)
本来ホーネットは大木の枝など、比較的高所に巣を持つことが多い。
このような草木で覆い隠されたような森であるなら、尚更木の上に作られているのが基本だろう。
それが、強風や大雨にでも煽られ、下へと落ちてしまったのだろうか。
目をパチクリさせながら動揺していると、攻撃されたと判断した数十匹クラスのホーネットが、痺れを切らしたように一斉にラミィへ向かって群れを成して突撃してくる。
(せ、戦闘はなるべく避けたかったけど、この数……! それにこのままじゃ、ミルフィ達まで巻き込んじゃうし……ええい、仕方ない!)
思い切ったラミィは、懐の短剣を1本抜き取り、なるべく音は立てないようにその場から思いっ切り後方へと跳躍し、人気のない雑木林へと姿を消していった。
第7話読了ありがとうございます。
少々更新に時間を要しましたが、無事投稿出来ました。
このまま第1章を駆け抜けたいと思いますので、是非感想や評価の程よろしくお願い致します。