1-06 いざ、マラサダの森①
2024/10/4
細かな加筆を行いました。
クレアの話し方を少し変更しました。
誤字を修正しました。
2024/3/17
細かな修正を行いました。
クレアの話し方を少し変更しました。
☆
「うーん……」
一方その頃。
灰髪清廉の少女、ラミィ・ティースは頭を抱えていた。
(この町でも大した収穫はナシ、かぁ……あっれだけ特徴的な子だし、1人くらい知ってるかなって思ったんだけど……甘かったか)
ミルフィの道案内の関係で、ギルド協会へと足を運んだついでに、近隣の冒険家らしい数人に声をかけ回ったのだが、残念ながらその足取りすら辿る事が出来なかった。
その日数にしてざっと18日。
未だに、彼女に関わる手がかりはゼロを更新し続けている。
(でも情報を集めるんだったら、クイニーアマンが1番好条件だろうし……仕方ない、時間なら有り余ってることだし、ここはローラー作戦と行きますか)
挫けていても仕方がない。
我が家を勢いそのままに飛び出して捜索に踏み切ったのは、紛れもなくラミィ自身の選択だ。
此処で弱音を吐くのは間違っている。
そう覚悟を決めて、
「……ん?」
ラミィの行く足が止まった。
その視線の先には、ピンク色の髪を左右に揺らす、見知った少女が目に映った。
「ミルフィ……?」
むむ、と目を細めるラミィ。
彼女の後ろには、ミルフィよりも更に小柄な藍色の瞳の少女。
その前を行くのは、反して背中に斧……ハルバードを背負った大柄の男性であった。
ラミィは暫くその光景を凝視していたが、
「ん……怪しい……どうも怪しい。そこはかとなく怪しい」
気付けばそんな負の呟きが口から出ていた。
ミルフィはギルド協会の場所すらてんで分からず、冒険家資格も今し方取得したばかりの初心者中の初心者である。
ミルフィの実力自体は定かではないが、少なくともまだパーティーを組み、探索へ向かうのは早計というものだろう。
(それに、手前の男の人……)
重装備を見るからして、かなりの手練れであった。
あの場にはミルフィ以外にも何十人と熟達の冒険家が所狭しと集まっていたのにも関わらず、今回が初依頼となるミルフィをパーティーに誘ったのは、何か理由があったのだろうか。
「……ついていってみるか……」
ラミィは邪推だと感じつつも、せめて行き先くらいは知っておくべきだと跡を付けることにしたのだった。
☆
「んー………」
更にその同時刻。
ギルド協会本部の受付嬢、ロア・バーヴァリオンも人知れず唸っていた。
その要因となっているのは、先程から手元にある1枚の紙である。
「何難しい顔してんのよ、ロア」
「……あぁ、レティ。私、そんなに難しい顔してた?」
「してたしてた。ロア、すぐに顔に出るから分かりやすすぎ」
レティと呼ばれた、ロアと同じくギルド協会の女性職員はそう茶化しながら、態とらしく笑みを浮かべた。
そのままゆっくりとロアの元へ近づき、彼女の真横から覗き見て、レティの顔色も渋くなっていく。
「あ〜……例の」
「そう、初心者殺しって輩。これで今月だけで14件目の被害だって」
「また?……はぁ、最近装い新たに出てきたって話だけどさ、アレって"クラッカー"の連中の仕業なんでしょ?」
「多分ね。確証はないんだけど、十中八九」
「ロアも変な人に捕まらないように気をつけなよ〜?顔はいいんだからさ」
「顔はって何よ、顔はって!」
いつも一言余計なんだから、と軽く小突こうとしたロアであったが、そこには既にレティの姿はなく、当の本人は積もりに積もったダンジョンへの探索許可証を軽々持ち上げ、『さぁてお仕事お仕事〜、ララランラ〜♪』と何やらよく分からない歌を陽気に歌い上げながら、奥へと入ってしまった。
初心者殺し。
近頃負の意味で話題となっている、言わば熟達した冒険家達が、右も左も分からないような初心者の冒険家を狙い、継続的に引き起こしている事件の通称である。
手口は様々であるが、『1つ儲けさせてやるから一緒についてこい』などと、人気のないようなダンジョンの奥地へと連れ出し、多人数で襲いかかって金目のものやアイテム類、はたまたその冒険家ごと誘拐されているケースも報告されている。
その主な先導者は、悪徳ギルドと名高い『クラッカー』の仕業だと実しやかに囁かれているが、現状犯人は捕まっておらず、同一犯ではないことは被害者の証言によって明らかとなっているが、その目的までは判明していない。
巧妙な手口故、未然に防ぐことが難航しており、ギルド協会側も手の打ちようがなかったのだ。
(それにしても、最近更に急激に被害件数が増えてる……)
そのロアの元に届いた紙は、今月早くも14件目の被害にあった冒険家からの被害届であった。
犯行グループの特徴や容姿について非常に細かく書かれており、被害者自身が書いたとされる似顔絵まで記されてあった。
勿論警邏隊の面々も、警備に回る人数を増やしたり、任意での聞き込みなどを行ってはいるものの、問題の解決には未だ至っていない。
(仮にギルド絡みだったら、何が取っ掛かりでもあれば芋づる式に一網打尽……ってそんな簡単な話じゃないか……)
一介のギルド職員であるロアには、これ以上被害を受ける人が出ないことを祈る他なかった。
☆
「───という訳で、だ」
時刻は丁度昼を回った頃。
マラサダの森ダンジョン前にて、筋肉隆々の大男、スキール・アインスが号令をかけた。
「少しの間だが、共同戦線を張ることになった。ミルフィと、クレアだ」
「よ、宜しくお願いします……!」
「……よろしく」
スキールから軽く紹介され、恐縮そうに揃って頭を下げるミルフィとクレア。
すると、ミルフィと同じくらいの年齢だろうか、威勢の良い坊主頭の男が続いた。
「兄ィから話は聞いてるっスよ。俺っちはドーグ・フィアシスっス! そんで、この朴念仁の権化みたいなのは……」
「誰が朴念仁の権化だ、誰が。……サコーラス・ドライハーディだ。暫くの間だが、よろしく頼む」
彼らがスキールの仲間であり、先程紹介したいと言っていた2名である。
坊主頭の男性がドーグ、そして藍色のロン毛頭がサコーラスと名乗った。
「にしても、スキールの兄ィは一体どんな手を使って、年端もいかないような女の子を2人も捕まえてきたんスか?しかもかなりの美少女じゃないスか」
「おい待て、その言い方だとお前、オレが無理矢理連れてきたみたいだろう。語弊があるぞ」
「ん? 違うのか?」
「無論断じて違う。なっ、2人とも」
「……………………」
「……………………」
「この沈黙が最早答えだろ」
「そういう男ってサイテーっス」
気まずそうに目を逸らす2人に、スキールはいっそう狼狽しながら、必死に否定する。
やがて、くすりと笑いながらクレアが口を開けた。
「冗談……無理矢理、じゃない。最終的には、クレア達の判断……だから」
「それならそうだって最初から否定してくれよ! 要らん冷や汗掻いたぞ!」
「ごめんなさい……そういう流れかなって」
「どういう流れ!?」
「まぁ、変質者と名高いスキールの野郎だとしても、強引に年下の女性の勧誘などはすまいと、俺は分かり切ってはいたんだがな」
「そ、そそそそうっスよ! 俺っちも信じてたっス!」
「嘘をつけ、嘘を! 最初っっっっからお前ら、オレのこと疑りにかかってただろうが! 特にお前!!」
3人による無情だが馴れ合いにも似た口喧嘩を横目に、ミルフィは同じくその光景を生暖かい目で端から見守るクレアに話しかけた。
「あの〜……クレア……さん」
「クレア、でいいよ。畏まる必要、ない……」
「えっと……クレアはどうしてこの人達に付いてきたのかなって」
「明確な、理由はないけど……強いて言うなら、困ってた……から」
少し気恥ずかしそうに、しかし真っ直ぐな目で返答するクレア。
帽子を深々と被り直しながら、
「クレア、この通り……魔法使い、なんだけど……クレアが使えるのが『炎』しか、なくて。でも、それでも構わないからって……スキールさんが」
「そうなんだ……」
「……ミルフィは?」
「私の友達が探してる人って言うのが、スキールさんが探してる人と特徴が似てたから。もし道中会うことが出来たら話してみたくて」
「……? ミルフィの、じゃなくて?」
「うん、友達。教えようにも現在地が分からなかったし、そもそも確定情報じゃなかったからね。ぬか喜びさせるのも……ほら、申し訳ないし」
「……なんていうか、お人好し」
「クレアこそ。ただ困ってたからって理由で引き受けるなんて、なかなか出来ることじゃないと思うよ?」
「………、……暇だったから、別に」
と、クレアは顔をほんのり赤く染めながら、明後日の方向を向いてしまった。
ミルフィはあくまでも、あの時案内してくれたラミィへの僅かばかりの恩返しの為に、と受けた個人依頼であったが、クレアは駆け出しの身でありながら、人助けの名目で自らの危険を承知で引き受けたのだ。
お人好しというなら、彼女の方こそお人好しなのではないだろうか。
単純に、ミルフィ同様誘いを断り切れなかった可能性も大いにあるのだが。
その後、ミルフィとクレアは未だ仲睦まじく喧嘩している3人を宥めながら、鬱蒼とした森の中へと入っていった。
第6話読了お疲れ様です。
次回更新は少しお待たせしてしまうかもしれません(新たに書き直します)が、ご了承の程宜しくお願いします。
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