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流離少女  作者: 雛上瀬来
第一章 クイニーアマン地区・邂逅編
5/42

1-05 依頼

2024/10/4

細かな加筆を行いました。


2024/2/21

細かな修正を行いました。

クレアの話し方を一部変更しました。


かくして、冒険家資格(ライセンス)カードをロアから受け取った事により、晴れて冒険家の一員となったミルフィだったが、無論これが最終目的地ではない。


冒険家であるならば誰しもが必ず通る、いわば最初の一歩を踏み出しただけに過ぎないのである。

半ば見切り発車で飛び出してきた為、何をすれば良いのか右も左も分からないミルフィは、ロアに尋ねる他無かったのだった。


ロア曰く、「最初は右手に見える掲示板から見てみるといいですよ」と案内されて、現在に至る。


「思ったより、色んな種類の依頼があるなぁ……」


どこか漠然とした感想を1人呟きつつ、掲示板付近に群がっている人の波に揉まれながら、木製の壁に貼り付けられた、100は下らない数の依頼を1枚1枚を凝視していく。





まず、冒険家にはランク制度、というものがある。


1番上に位置するのは、現在最高ランクのSS。

ここへ到達するには、果てしない数の依頼を熟さなければならない。

故に、現状SSランクの実力を持つ猛者というのは、両の指で数えられる程極少数だという。


そしてミルフィが位置しているのは、勿論最下であるFランクであった。


ランクが上になればなるほど、受けられる依頼も増えて、報酬もより豪華になっていくが、勿論それに比例して達成難易度も跳ね上がっていく。

只管数を熟していくか、難しい依頼を受けるかの二者択一を天秤にかけながら、それでも自分の身を最優先で動く必要がある。


(私クラスで受けられそうなのは……人探し、特定アイテムの収集、街の短時間のパトロール……当たり前だけど、洞窟とか遺跡みたいなダンジョン探索はまだ出来なさそう……)


と、ミルフィは肩を落とした。


こう見えても腕っ節には相当自信があるのだが、洞窟調査などは最低でもDランク以上の依頼が殆どで、現在最低レベルのミルフィ1人だけでは、恐らく達成云々の前に、ダンジョン付近を見回っている警邏隊(ガーディナー)の面々によって、静止させられそうなものである。

せめて4人ほどの人数のパーティーであれば、問題は無さそうなものなのだが……


「……でも、これだけ張り出されている分、目の前に困ってる人がいるってことだしね。まずは私が出来ることから……」


そう改めて覚悟を入れ直した時だった。




『お嬢ちゃん、新入りかい?』




その声の源はミルフィの真横だった。


弾かれたように声の方向を振り向くと、そこには筋肉質なガタイの良い30代程の男性が悠然と立っていた。


隣には、魔女のような黒い帽子を深々と被った、ミルフィと同じくらいの身長の女の子。

その表情は、ミルフィからでは確認こそ出来ないが、少し警戒しているように感じた。


「はい。ついさっき冒険家登録したばかりで。えっと……」

「オレの名はスキール。スキール・アインス。こっちはクレアだ。よろしくな」

「……私はミルフィです。こちらこそ」


困惑を隠せないままミルフィは軽く頭を下げた。

未だに声をかけられた理由が分からないからだ。


そのスキールと名乗った男は、ミルフィにこう切り出すのだった。


「早速ですまないんだが……少しばかり、手を貸してくれないか、ミルフィ」

「……え、私?」

「そうだ。実はな……」


と、男は深刻そうな表情でミルフィに語り始めた。






つい数日ほど前から、男の仲間であった緑髪の少女が行方不明になっている、とのことだ。


クイニーアマンから北北西に歩くと『マラサダの森』という森林ダンジョンがあるのだが、中級魔物モンスター討伐の依頼を受託した後、単身で向かってから彼女と数日間音信不通らしい。


ここからマラサダの森までは、数時間もかからない場所にあり、比較的クイニーアマンからも近い。

数日もの間未だに連絡がないままなのは、やはり心配である。


この辺りで軽く聞き込みを行ったが、特に有益な情報は得られず、痺れを切らしたスキールは、そのマラサダの森に向けてのパーティーを募っている最中だったという。






事の経緯を聞いたミルフィであったが、どうにも腑に落ちない点があった。

少し怪訝そうな顔を浮かべながら、


「事情は分かりました……けど、どうして私に?私よりランクが高い人なんていくらでも……」

「あ〜……報酬がなぁ……」

「報酬?」

「えっとだな……まず、この一件をギルドの依頼で出そうとすると、『人探し』と『同行希望』っていうカテゴリーに分類されるんだが、マラサダの森ダンジョンの攻略ランクは推奨Dランク以上。だが、生憎とオレは素寒貧でな……それに見合った報酬や、アイテムっていうのが用意できないんだ」


口惜しそうに天を仰ぐスキールに、ミルフィはふと気付いた。


ラミィが他に人手を使わないのは、金銭面の余裕が無いからなのだと。

境遇自体は、ラミィもこの男も同じなのだろう。


でも、とミルフィの方を向き直り、


「当たり前だが無償とは言わない。オレのランクは腐ってもDランク。初心者の相手になら、今まで培ってきたそのノウハウくらいは提供出来る。これでも冒険家歴は長い方なんでな」

「それで……私に?」

「あぁ、どうだろう。全く悪い話って訳じゃないとは思う。街へ戻るまでの安全は約束するし、森での習得品(ドロップアイテム)は、初心者の2人で分けて貰って構わない」

「……2()()?」

「クレア、も……さっき、スキールさんに……頼まれたの。手伝って、くれないかって……」


だんまりだったクレア、という少女が、ここで初めて口を開けた。

容姿からでは想像出来ない、どこか大人びていて澄んだ声であった。


「さて、と。こんなもんか……どうする?別に強制はしてないし、拒否権はあるからな」




スキールの依頼。


報酬としては、モンスター討伐時の報酬と、僅かばかりのレクチャー。


実を言えば、どちらにしてもミルフィにとって、全く不要……とまでは言わないが、危険を冒してまで必要とはしていなかった。


少なくとも、生活していくだけなら困窮しないくらいの財力があり、武器やアイテム類なんかも心配性の父母から有り難く頂戴しているので、各種アイテムもこれといって特別欲しい訳でもない。


強いて言えば、大剣の馴染み具合を確認しておきたいのと、パーティーでの連携の動きを練習しておきたいくらいのものか。

ミルフィは基本的に独自で鍛錬していた為、パーティーを組んで探索する、というのは初めての試みである。


しかし、ミルフィにとって、重要なのはそこではない。


(()()()……?)


唯一、ミルフィが引っかかっているのは、スキールが軽く触れた〝行方不明者〟の方である。

緑の髪色、と聞いてふと思い出したのは、ラミィの探し人だ。


(そういえば、ラミィが探してるブリュレって女の子も、抹茶色の髪って言ってたっけ……)


もしかして、と思いながらもスキールに尋ねる。


「あの、その人ってもしかして、ブリュレって名前じゃ……」

「ブリュレ?いいや、カタラーナって名前だが……と、そういや……この町に来る随分前に、名前を変えたって言ってたな」

「名前を……変えた?」

「昔の名前をあんまり名乗りたくないんだとよ。何があったかは知らないが……本人からしてみりゃ、通名とでも思ってるんじゃないか?ミルフィがいうそのブリュレって名前が、本名なのかどうか、詳しくはオレも分からないんだけどよ。もしアイツが見つかったら、直接聞いてみたらどうだ?」


名前を変え、忽然と深い森の中へと消えた少女。


それがラミィの探し人かどうかはともかく、願わくば1度話を聞いておきたい。


「それで、どうするんだ?」

「えっと、微力ながらお手伝いします。私の友達が、探している人かもしれないので」

「そうか……ありがとう、恩に着る。そういうことなら、早速だがオレの仲間と合流したい。少し一緒についてきてくれるか?」

「分かりました」


と、短く返して、ミルフィはスキールの後を追った。



第5話読了ありがとうございました。


続きが気になるという方は、感想など是非に。

よろしくお願いします。

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