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流離少女  作者: 雛上瀬来
第二章 クイニーアマン地区・ギルド編
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2-21 窮鼠


眼前に広がる「それ」は、死屍累々のかつて冒険者であったもの(・・・・・・・・・)であった。


俗に言うならば、地獄絵図、とでも表現すべきだろう。


そうフローラは回らない脳内でそう想起した。



そして、幾度となく冒険者を喰い荒らし、踏み潰し、切り裂いてきたその元凶(ニーズヘッグ)は、まるで勝利を宣言するかの如く、死臭が拡がる戦場の中心で雄叫びをあげている。



────奴は、あまりにもタフすぎた。



どれだけの攻撃を与えても。


どれほどの魔力の塊をぶつけても。


怯むことすらなく、ただ機械のように人をすり潰していく姿は、まさに『悪魔』と形容するに相応しい異形の化け物だ。




そして────既にこの場に立っているのは、3人だけとなっていた。



「フローラ……フローラ!しっかりするし!!」


モネが泣きじゃくりながらフローラの肩を揺するが、彼女の反応はない。


瞳孔が開いたまま、焦点が合わない曇った目で一点を見つめるのみだ。


彼女の精神は、既に限界を迎えていた。


「そりゃぁ……そうなるわよねぇ。なんて言えば良いのか、とにかく……普通じゃないわぁ」


リノも肩で息をしながら、遠い目で嘆いた。



普通じゃない。


それは、今の血で血を洗うような戦場を見れば一目瞭然だろう。


戦闘というより、これでは一方的な虐殺だ。


「やっぱり……フローラは早めに逃がさなきゃ、いけなかったし」

「あらぁ?もしそうなってたら、もっと早くあたし達が死んでたわぁ……一体何回、あの子に助けられたと思ってるのよぉ?」

「……」


リノの言葉に、モネも押し黙った。


フローラが行っていたのは、治癒(ヒール)だけではない。


前線が完膚なきまでに崩れてからは、フローラが前衛の役割を担っており、それこそ『魔力回復薬(マジックポーション)』が無くなるまで、ただ全開で魔法を撃ち続けていた。


それでも────届くことは、なかったのだ。


「今のこの子は多分、回復薬(ポーション)を短時間に一気に飲み過ぎた末、精神喪失状態になってるみたいねぇ……暫くすれば戻るとは、思うけどぉ……」

「し、暫くって言われても────」


モネとリノ、2人の見つめる先には、未だ五体満足で叫び回るニーズヘッグが立ち塞がっている。


これではフローラが正気に戻ってくる前に、3人とも殺されてしまう。


「……ウチがやるし。リノは、フローラを連れて下がるし」

「何を……」

「毒のブレスは散々見飽きたし。ま、結局───当たらなきゃ、良い訳だし!」

「あっ、ちょっと……モネ!!」


リノの静止を聞く前に、モネはぐぐっと体幹に力を入れると、短剣を強く握りしめて大きく前進した。


更に、空いた手で内ポケットから火炎瓶を取り出す。


(化け物だろうと、ゼロ距離で撃てば時間くらいいくらでも稼げるし────!!)


真正面からでは勝負にならないのは目に見えている。


せめて、フローラが目覚めるまでは自分に狙い(タゲ)を合わせたかった。


散々毒を治癒して貰い、今もこうして生きている。

ならば、答えは決まっていた。


「受けた恩は100倍返し、ついでに────」


モネの接近に気付いたニーズヘッグが、けたたましい咆哮と共に、モネに向けて突進を仕掛けてくる。


ニーズヘッグも、正面からでも彼女に打ち勝つ自信があるのだろう。


ドシン、ドシンッ、と地面が軋む音に冷や汗を掻きながら、それでも尚速度は緩めない。


(その攻撃は、さっき、見たし!!)


接近してからの、噛みつき。


それは、先ほどリーダーであったズコットが捕食された時の攻撃だ。


巨大な口が開かれ、刺されば致命傷どころではないほどの鋭利な歯が見えた時である。


モネは左手に仕込んだ火炎瓶を、その口内へと軽々と放り投げた。


『─────!?!?』


恐らく今、ニーズヘッグの口腔では想定外の炎の奔流が駆け巡っていることだろう。


だが、そんなものじゃ済ませられない。


追加で2本火炎瓶を取り出してから、両眼球へと投擲する。


「────やられた分は、1万倍返しだし!!」


グルァァ、と獰猛な声をあげながら唸るニーズヘッグに、モネは良い気味だ、とばかりに舌を出した。


目も潰した。

噛みつきも恐らく当分は使えまい。


「モネさんっ!!」


正気を取り戻したばかりのフローラの呼びかけに、モネは手を振りながら、


「おおっ、目を覚ましたし?ウチが文字通り身を削って時間稼ぎしてあげたんだから、少しは感謝してもいいんだし!」

「その点はありがとうござ……じゃなくてっ!後ろ!!」

「はひ?」


慌ただしく指を指すフローラに頭を傾げつつも、後ろを向くと、そこにはモネの投げた火炎瓶のダメージでのたうち回っているニーズヘッグが目に入った。


だが、視覚がないとはいえ、尚更タチが悪かった。


未だ近くにいるモネを、強靭な足で踏み潰そうとしていたのだ。


「げぇぇっっ!?」


気付いた時には既に遅かった。


予想外の攻撃に、モネの反応が間に合わない。




『──────!!!!』




刹那。

どこからともなく、『何か』がニーズヘッグを襲った。


初めは、モネが潰される所を見たくないと目を伏せていたフローラにも、『何か』が飛んできたのは辛うじて認識出来たが、それが何かまでは判別出来なかった。


やがて、それが身の丈をも越えようかといった『巨大な剣』であることに気付いた。


飛来した『巨大な剣』が、ニーズヘッグに突き刺さり、バランスを崩して背後に倒れたのだ。


(あの、剣は──────ま、まさか)


フローラは、その剣に見覚えがあった。


大剣使い、と言っても様々ではあるが、あれほどまでに並々ならぬ巨剣を背負っている冒険家を見ることも、そう多くはない。


1人。

最近会った人の中で唯一、あんな大きな剣を持っていた少女に、心当たりがあった。












「─────お待たせ。助けに来たよ、フローラ」


第39話、読了お疲れ様です。

いよいよ次回から、本格的にVSニーズヘッグが始まります。

果たしてどう攻略していくのか……!?


と、ここで中編終了につき短期集中更新も今日をもってひとまず完了とさせて頂きます(ストック不足)。

後編はおよそ10話くらいの予定をしておりますが、エピローグとキャラ設定含めればもう少し長くなるかも……?

とはいえ、今年中に書き上げる予定ですので、またこの時期の投稿になるかと思われます。

願わくば、遅筆を直したいものです。


それでは、感想など宜しければ是非、お願い致します。

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