1-03 灰髪の少女②
2024/10/3
細かな修正を致しました。
2025/2/14
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☆
道すがら、往来の激しいクイニーアマンの街を灰髪の少女─────ラミィ、と名乗る少女と共に歩くミルフィは、彼女に向かって話しかけた。
「あの……冒険家歴は長い方なの?」
「ん、いや。全然短いよ。まだ2週間くらいかな?駆け出しの駆け出しだよ」
「に、2週間!? 何か意外……」
「そう?そんなに私って、歴戦の戦士っぽく見えるかな?」
そう言いながら、ミルフィの方を振り向くラミィ。
改めて聞かれてみると、その華奢な体を含め装備全般、冒険家として見るには些か過分な気もする。
こんな装備でゴツい魔物と戦って、果たして無傷で済むのだろうか、と心配になるくらいの、最低限の装備を更に削りに削った軽装であった。
「そもそも、別に私は冒険家になりたくてなった訳じゃ無いんだよね。そうせざるを得なかったというか……その、お金がなくて」
言い淀むかのように、ラミィは物悲しそうな表情を浮かべた。
その瞳には、一言で語り切れない「何か」を、ミルフィは無知ながら感じてしまった。
「ほら、冒険家登録さえすれば、ギルドの依頼を受けられるからね。その報酬金で何とか……って感じかな」
「そこまでして、何で冒険家に……?」
「ん……友達を探しててね」
ラミィ曰く。
つい1か月程前に、唯一無二の仲である「ブリュレ」という名前の親友が、突如として忽然と行方知れずとなってしまった。
あまりに突然のことで、何か事故や事件にでも巻き込まれてしまったのではないだろうか、と宜しくない想像を掻き立てたラミィは、居ても立っても居られず、後先考えずにそれまで暮らしていた町を単身飛び出して、行方を晦ました友人の探索に率先して打って出ることにした。
のはいいのだが……
数日間は野営で凌いでいたものの、何をするにも金銭が必要であると思い知り、この中央都市であるクイニーアマンで冒険家を営む傍ら、親友についての情報収集に励んでいる真っ最中、とのことだった。
ここまで掻い摘んで話し終えたラミィは、そうだ、と思い出したように尋ねる。
「髪が濃い抹茶色で、瞳は臙脂色。ドリルみたいに髪の毛巻いてて、武器は私と同じ短剣持ってて、身長はミルフィと同じくらい。ちょっと喧嘩っ早くて吊り目だからか雰囲気怒ってそうなイメージなんだけど、実は内面は乙女趣味全開で勝ち気強気意固地が取り柄の、3拍子揃った女の子見なかった?」
早口言葉にも劣らないような、莫大な情報量を一息に捲し立てられたミルフィは、目を回しながらしどろもどろに答えた。
「い、いや……私も今日来たばっかりだから……でも、道中にそんな目立つ子は見なかったかな」
「ん、そっか……もう、ほんと何処行っちゃったんだか。心配させるだけさせといて。ま、あの子は私よりもタフだし強いし賢いし、その辺で行き倒れてるっていうのは、ちょっと想像すら出来ないわ……」
やれやれ、と困り顔を浮かべるラミィ。
それでも、ラミィにとって掛け替えのないとまで言い切っても良いと思っている存在であり、実際己の身を顧みず飛び出して来た所を見れば、どれほど親身に思っているのかは一目瞭然である。
ミルフィは少し何かを考えた後、
「……そういうことなら私もラミィの友達探し、手伝うよ」
「えっ、それは有難いんだけど……大丈夫?ミルフィも何か用があって、この町に来たんじゃ」
「今の所何の予定もないから大丈夫。私もラミィとは理由は全然違うけど、勢いで出てきたみたいなものだし。それに、多分ラミィに道案内して貰えてなかったら、今頃路頭に迷ってた可能性だってあったから……些細なお礼ってことで」
「そ、それは言い過ぎだと思うけど……ありがとっ、正直言って滅茶滅茶助かる!!」
そうミルフィに手を合わせる灰髪の彼女。
現状、手がかりの1つすら掴めていない行方不明の状態だ。そのまま放置しておくなんて事は、正義感の強いミルフィにはとてもではないが出来なかった。
無論、人手は多い方が効率的だろう。
人探しであるなら片手間にでも手伝う事が出来るし、何より、困っていた自分を無償で助けてくれた彼女に、ほんの僅かでも恩返しをしたかったのだ。
☆
「はい、ここがギルド協会だよ」
10分程度話をしていると、目的のギルド協会の本部へと到着した。
外見からも察せられる通りだが、本部というだけあってかなり広々としており、あちこちで人集りも出来ている。恐らくはその殆どが冒険家の人たちなのだろう。
そんな折、ミルフィは愕然としながら思わず声を漏らした。
「ひ、広ぉ……」
「ちなみに、町の中でも5本の指の中に入るくらいには大きい建物みたい。流石全国の冒険家が集う町のギルド協会の本部だよね。桁外れって言うか……」
(こ、この広さでも5本指なの……!?)
ラミィの補足によって更に戦慄してしまう羽目に。
クイニーアマン、なんて恐ろしい街……とミルフィにして早くも2度目の泡を食う始末である。
「……あの〜、ミルフィ。呆然としてる所悪いんだけど、冒険家のライセンス登録はもっと奥だよ?」
「う、うん……ありがとう。ここまで来たら何とかなりそうかな」
「ん……そう?ほんとに?本当に大丈夫?」
尚も心配そうな表情を浮かべるラミィ。
やはり先の件もあってか、彼女1人で放置するのも気が引けるのだろう。
しかし、いつまでも多忙な彼女の手を煩わせる訳にもいかないと、ミルフィは首を振った。
「大丈夫。きっとなるようになるよ!」
「うっわ、激しく不安なんだけど……私も当分はこの辺りにいるだろうから、困った事があればいつでも声かけてね。念の為私が泊まってる宿屋とかも教えておいた方が良いかな?」
「あ……ううん、流石にそこまでは……」
「……個人的に物凄く不安だから一応教えておくね。ここから出てずっと右に行くと、突き当たりに『シロップ』って言う喫茶店みたいなお洒落な建物があるんだけど、そこのカウンターにショコラさんって人がいるから、聞けば私の事も教えてくれると思うよ」
(……折角だし、もしも困ったら行ってみよう……って言っても、今夜あたりに早速助けを求めに向かうも迷子になる未来が見える……!)
未だに整理しきれていない頭で、反射的に相槌を返しながら、ミルフィは密かに震えるのだった。
「それじゃ、頑張ってね。……呉々も、くれぐれーも変な人にだけは引っかからないようにね?」
「うん、ラミィも。友達、早く見つかるといいね」
ラミィと名残惜しみながらも別れた後、ミルフィは早速受付で、何やら難しそうな資料を怪訝そうな顔で睨む高身長の女性に、おずおずと話しかけた。
第3話読了お疲れ様です。
感想など宜しければ何卒宜しくお願いします。