1-02 灰髪の少女①
2024/10/3
細かな修正を致しました。
2024/2/14
細かな加筆を行いました。
多分若干読みやすくなりました。
☆
そうして、次の日。
いよいよミルフィが、ここスモアの地から出発する日である。
「ミルフィ、ちゃんと寝れた?忘れ物はなぁい?」
「多分! でも楽しみすぎて、結局あんまり寝れなかったよ」
「楽しみなのは分かるけど、目的地のクイニーアマンまでの道のりはそこそこ長い。その剣を持って歩く事を考えれば、もう少し体力を付けておくべきだったかもしれないね」
首を捻ってむむむ、と唸るビューニ。
最も、その超重量級の大剣さえ無ければ、幾許かは冒険も楽になるんだろうなぁ、とミルフィは不満そうにため息を零した。
「ところで、アナタは暫く家にいるの?」
「ああ。警備の方も一段落している事だし、わざわざ僕が出張らずとも、最近は平和そのものだよ。後輩の育成もしないといけないしね。当分休暇って事で」
ビューニ率いる警邏隊は、かつて何度も世界を救ったと専らの噂になっている、知る人ぞ知るかの〝伝説の〟パーティーが主軸となって構成されている。
活動は主に街の警護や防衛、魔物や賊人の討伐などを行っており、その規模は大小様々ではあるが、要するに全国各地に渡って展開されている、大規模ギルドのような集団だ。
悪徳業者や洞窟内部での魔物の大量発生など、相変わらず由々しき問題は多々発生しているようではあるが、リーダーであるビューニが率先して動く程の大事件は起こっていないらしい。
「もしも、ミルフィが今よりももっと強くなって、警邏隊の部隊長にでも就任してくれると、僕個人的には凄く助かるんだけどな」
「…………」
「……不服かい?」
「……私は、お父さんを超えるような冒険家になりたいからね。暫くは私だけでやりたいかなって」
「……ははっ、そっか。お父さんを越えたい、ねぇ」
まるで嘲笑するかのような、挑戦的に笑みを見せるビューニに、ミルフィは頬を大きく膨らませた。
「む、何その乾いた笑い。もしかしなくても今『私には無理だ』って思った?」
「いやいや、そんなことはないさ。いよいよミルフィもお父さんから独り立ちする時期が来たんだなって、少し感慨深くなっただけだよ」
いつの日か少女は父と並びたいと願い。
いつの間にか少女は自分を越えたいと確かに口にした。
これが成長なのだろう、とビューニは込み上げて来る「何か」を無理やり飲み込んだ。
ミルフィは靴の爪先をコツン、コツンと2回鳴らしてから、その手に余る大剣をふらつきながらも背中に装着し、これでもかと膨らみに膨らんだショルダーバッグを肩に掛けた。
「それじゃ、行って来るね。……寂しくなったら、帰ってくるよ」
「……ああ。呉々も気をつけるんだよ、ミルフィ」
「ミルフィ、いってらっしゃい。偶には帰ってきて顔を見せるのよ?」
うん────と1つ頷くと、扉を開け放った。
そして、微かに。
しかし確かに、2人に聞こえる声で、
「行ってきます」
と暫しの別れを告げるのだった。
☆
少しだけ、哀愁漂うような。
しかしながらどこか逞しいとさえ感じる背中を見送ったビューニは、目頭を押さえつつ、ふと口を溢した。
「……なぁ、エヴァンタ」
「ん?」
「ミルフィは、いつあんなに立派な子になったんだい?僕が知ってるあの子は、僕が出掛けようとする度にやれ連れてってだの、やれ早く帰ってきてだの、散々駄々を捏ねてたと思うんだけどな?」
「それこそ一体いつの話なのよ。ミルフィも、もうすぐ17よ?」
「そうか……子どもの成長というのは、早いものだね。スクリムの言っていた事が少し分かった気がするよ」
「それはそうよ。それにアナタ、長いと丸1年くらい帰って来なかったじゃない」
「ははっ、違いない」
「ほら、アナタも。いつまでもそんな年季だけ無駄に入ったダッサいパジャマ着てないで、早く着替えてくれないかしら。洗濯物洗えないじゃない」
「ダッサい服とは何だ、これはかの有名なブリットルの民族装束で────」
「はいはい、分かったから───早く、し・な・さ・い?♡♡♡♡」
「…………、…………はい」
エヴァンタの発する圧に完敗したビューニは、ついでに涙も引っ込んでしまったという。
☆
中央都市・クイニーアマン。
ここ4、5年で急激に発達した交易都市として盛んであり、各地から旅団や商人達が来訪し、町に住まう総人口自体もかなり多い。
急激に人口が増加した理由には、やはり利便性が故であろう。オフィスビルに劣らない程の高さに匹敵する建物なども、数年僅かで随分と増えてきた。
そして、クイニーアマン区の中心地に、各地にある『ギルド協会』の本部がありありと聳え立っている。
まず冒険家の第一歩としては、『冒険家資格』というものが必要となってくる。
所謂、身分証明のようなものに近いのだが、これを所持していなければ一部の洞窟や、遺跡などの「指定エリア」として協会より定められたダンジョンには、一切立ち入る事が出来ない。
また、ギルドの加入にも制限がかかる為、将来的にも確実に持っておいた方が良い、必須となるアイテムだろう。
ここが、ひとまずのミルフィの目的地となるのは明白であった。
───と、そんな訳で。
地図の読めないミルフィは、只今絶賛迷い子状態へと陥っているのだった。
「え、ええぇぇぇ〜〜〜〜〜〜………?」
と、自身の中に積もりに積もった、有り余る戸惑いを漏れなく放出しつつ、クイニーアマン区内部の簡易マップを見る。
だが、悲しいかな自身の現在地すらも、正確に把握出来ないのであった。
広い。
広すぎる。
とにかく広かった。
クイニーアマンを訪れるのは、決して初めてという訳ではなく、父の付き添いで何度かこの光景を目にしている。
しかし。
しかし、だ。
恐らく足繁く通っていたとしても、この町の隅々を記憶するのは、随分と骨が折れる作業だと断言出来る。
方向音痴であるミルフィに課せられた、最初の関門であった。
(ま、待って待って……! まだ、慌てる時間じゃないよ私……まずは、周りを観察すれば、きっと現在地くらいは……? えっと、この辺にあるのは武器屋、道具屋、宿屋……)
と、周りを数秒をかけてじっくりと見渡すも、その景色はミルフィの住んでいたスモアの街よりも、当然複雑怪奇である。
因みに、ミルフィの視界内だけでも、武器屋は計3店舗にも及んでいた。
(いやでもよく見たらこの町いっぱいある!! 普通に両手足の指より多いんだけど!! 私の地元、多くて5軒くらいだったのに!?こ……これがカルチャーショックって奴!? 都会、怖い!!!)
などと負の衝撃を受けながら、目が回りそうになる。
記憶力には多少自信のあるミルフィであっても、あっちを見てもこっちを見ても、武器屋、防具屋、宿屋である。
しかも、運が悪いことにほぼ同じような外観なのも、ミルフィを迷わせる一因となっていた。
(誰にも頼れそうにないし……あは、これは骨が折れそう……!)
と、目頭に若干の涙を浮かべながら地図と格闘している時だ。
「───ね、大丈夫?知恵熱出そうなくらい、唸ってるみたいだけど」
背後から女性の声。
思わず弾かれたように振り向くと、そこに居たのはミルフィと同年代くらいに見える少女の姿があった。
身長は160センチ前後ほどであり、その灰色の長髪がふわり、ふわりと風に靡かれている。
冒険家……だろうか。それにしては、鎧はおろか白いダッフルコートのような服装に、両サイドのポケットに小型の剣が2本と、かなり軽装に見える。
突然の助け舟にミルフィは心底動揺しつつ、少し上擦った声で返答する。
「ぎ、ギルド協会に行きたいんだけど、この町広すぎてよく分からなくなってて……」
「ん……?もしかしてこの町、初めましての人?って言っても、私もここに来てからまだ日が浅いんだけどね」
頬を掻きながらぎこちなく含羞む彼女に、ミルフィもつられて頬を緩ませた。
「ん……そうだ、良ければ私が案内してあげようか?1人だと何か……心配だし」
「いいの!? あ、でも忙しいんじゃ……」
「いいの、私も実質暇みたいなものだから……えーと」と一呼吸入れて、「そういえば、名前。言ってなかったよね。私の名前はラミィ。ラミィ・ティース。暫くだけど、よろしくね」
「私はミルフィ。よろしく……えー、ラミィ……さん?」
おずおずと、灰髪の少女の名前を呼んでみる。
同年代の友達が居ないミルフィにとって、目の前の少女は、何処か神々しく映っていた。
すると、少女はふるふると力無く首を振る。
「ラミィ、でいいよミルフィ。敬語とかなしなし」
「あ、うん……ラミィ」
「それでよし」
ふふ、と綻ぶラミィ。
彼女と話すと何だか安心するような、そんな気を感じた。
もし、自分に姉がいたらこんな感じだっただろうか……と。
「さ。詳しいことは歩きながら話そっか。私に付いてきて」
そんな物思いに耽っていると、ラミィは迷わずに歩き始めた。
ミルフィはうん、と1度深く頷くと、慌てて彼女の後を追うのだった。
第2話読了ありがとうございます。
面白い、続きが気になると思って頂けましたら感想など宜しくお願い致します。