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流離少女  作者: 雛上瀬来
第一章 クイニーアマン地区・邂逅編
1/42

1-01 あの日

2024/9/30

細かな誤字を修正しました。

ミルフィ、ビューニの台詞回しを少し変更しました。


2025/2/13

500文字弱の僅かな加筆を行いました。





────ねぇねぇ、パパ!




────うん?何だい、ミルフィ?




────私ね、いつかパパと世界を見て回ってみたい! 今度冒険に行く時は、私も一緒に連れてって! 良いよねっ?




────う〜ん、そうだなぁ。今のミルフィには、まだちょっと早いかな?もう少し、大きくなったらね。




────ええぇぇぇぇ……パパのケチっ。ねぼすけ。あいさいか!




────ミルフィ。そんな言葉を一体何処で覚えたんだい?あと、愛妻家(あいさいか)は良い言葉だからね?




────むぅぅぅぅぅぅぅ……。




────そんなにむくれないの。きっと10年も経つ頃には、ミルフィだって立派な冒険家になってるさ。なんていったって、パパの子どもだからね。




────10年なんて、待てないよ。




────たかが10年だよ。ミルフィが1人前に成長したらその時は、一緒に冒険に行こうか。




────ほ、本当っ!? 約束してくれる!?




────うん、約束だ。




────私ねっ! 大きくなったら、こ────んな大きい剣を背負って、パパみたいに誰からも羨ましがられるような、立派な冒険家になるの! あとはね……




────(いつかくる、その時を……楽しみにしているよ、ミルフィ)









それから。

いつしか8年余りの年月が経ったある日。


鮮やかなピンク色の髪の少女、ミルフィ・ユーグティスは、夕食後、自らの父であるビューニ・ユーグティスと対面していた。


普段の緩さからは想像もつかないような真剣な眼差しを向けられ、ミルフィもやや困惑の表情を隠せていない。


やがて、ビューニは落ち着いた口調で話を切り出した。


「さて、ミルフィ」

「どうしたのお父さん改まって。如何にもシリアスそうな顔して……はっきり言うけど、そういうの似合ってないよ?」

「似合ってないってどういうこと。僕はいつもこの顔の筈なんだけどな」


ミルフィに茶々を入れられ、ビューニはコホン、と1つわざとらしく咳払いを挟む。


「いよいよ明日、ミルフィはたった1人で、初めて旅に出るんだろう?」

「うん。とりあえず中心区の〝クイニーアマン〟に行って、冒険家登録を済ませてくる。それから先の事はまだ、具体的に何をするのか全然決まってないんだけど……」

「無鉄砲なのはミルフィの悪い癖だね。しっかり行き先を決めてから行動しないと。ミルフィはただでさえ方向音痴なんだから」

「……お父さんだって『1週間で帰る』って言っておきながら、半年間も帰ってこなかった癖に」

「………」


これが反抗期というものか、と頭を抱えるビューニだったが、しかし全くもって反論の余地のない正論を突かれ、思わず引き攣ってしまう。


こうも子は親に似てしまうものなのだろうか?

一体誰に似たのやら。

僕か。僕なんだろうなぁきっと。


自らの心の内と葛藤しながら、それはともかく、と棚に上げるポーズを取りつつ、話を続ける。


「……そうなると、やっぱり自分の武器(えもの)がないと色々と不便だろう?」

「それなら一応、お父さんに借りてる修行用の剣ならあるよ」

「一人旅、というには何だか味気ないし、アレは年代物でガタが来てる上にあちこち錆びている。長旅には不向きだよ」


ビューニはそう一蹴し、更に続ける。


「いいかい。とかく冒険というものは、熟知した達人であろうとも何が起こるかなんて容易に予測出来ないものなんだ。例えば、突然魔物や盗賊に襲われることもあるかもしれない」


と、自身の傍らに据えていた大剣を徐ろに机の上に置いた。


何この大きい剣、と疑問符を浮かべながらそれを受け取ろうとするミルフィだったが、そのあまりの重量に思わず落としそうになる。


「お、おっもぉぉぉぉぉ〜〜〜っっ!?!」

「それを満足に振るえるようになれば、お父さんを超える冒険家になるだろうね」

「いやその前に16の女の子が持ち歩くにはいくらなんでもおもぉぉぉぉ!!?」

「この大剣はね、本来ならムッキムキの成人男性ですら、2人がかりでも持ち運ぶのは厳しいみたいなんだけど、聞く所に寄れば、太古から存在している貴重な武器らしいんだよ」

「そ、そんな訳アリ難アリトンデモ武器背負って旅しろとか鬼なの!? 私、筋トレに行くんじゃないんだけど!! なに、もしかして私に恨みでもあるの!?」


実の父親から課せられた武器……というには程遠い最早足枷に違いないゲテモノ剣に、思わずシャウトするミルフィ。


それこそ幼少の頃より、父にみっちり扱かれていたミルフィとは言えども、あくまで年相応の少女なのである。


「ほら、これをお父さんだと思って、ねっ?」

「お父さん重すぎ! もうちょっとスリムになって! お願いだから!!」

「え、剣の話だよね?今、ちょびっとだけお父さんに刺さったよ?剣だけに」

「両方! あと急に部屋の温度下がった!」


わいわいと騒ぐ父娘。


結局メルフィが引き下がり、謎に包まれた超重量級大剣を受け継ぐことになったのだった。


メルフィは軽く触ったり、撫でたり、顔を近づけたりして大剣の状態を確かめつつ、ビューニに尋ねる。


「ところでどうしたのこの剣。それに、お父さんの持ち武器って(ランス)じゃなかった?」

「〝ある人〟からの依頼協力の謝礼でね、貰ったんだ。ただ、僕自身は大槍使い(ランサー)で通してるし、大剣なんて尖った武器使う仲間も居なかったけど、捨てるのも売るのも勿体無かったから、そのまま持って帰ってきちゃったんだよ」

「……はぁ。お父さんのその『要らないものコレクション』も何個目?」


冒険家、という職業が攻を奏してと言うべきか、災いしてと言うべきか……

曰く、何処かで『貰ってきた』『拾ってきた』と称される武器や防具、各アイテム類、貴重品、果ては売れば大豪邸が買える宝石や化石などが、ユーグティス邸の部屋という部屋に所狭しと並んでいる。


沢山ありすぎて、もう家の中が軽い博物館の展示のようにごった返していた。


イマイチその1つ1つの希少価値が分からないミルフィにとっては、「また奇妙な物が増えた……」と、ただただ呆れ果てるばかりではあるが。


説明をビューニ本人に求めようにも、話し始めれば3時間は止まらないので、諦めが勝ったミルフィは以下割愛、と言った具合だ。


「ミルフィも直に嫌というほど分かるようになるよ。貴重だから、といざ手に取るは良いけど、結局使わずに家に持ち帰ってしまう……一種の冒険家あるあるだね」

「────それなら、捨てれば良いんじゃないの?」


と、こちらも呆れ顔で声をかけたのは、夕食の洗い物を終え、いつの間にか居間へ入ってきていたミルフィの母である、エヴァンタ・ユーグティスだ。


エヴァンタからの至極ご尤もな指摘に、ビューニも思わずしどろもどろになる。


「いやぁ……全部要るんだよ」

「一見その辺の土か泥にしか見えない鉱石も?」

「それも」

「この……腐った果実みたいなアイテムも?」

「それも」


えぇ、と眉を顰めるミルフィ。

それって俗に言う、典型的な物が捨てられない人の言い訳なのては、とますます困惑するも、父の威厳にかけてあえて揚げ足は取らないことにした。


「まぁいつものことだしね……この人の勿体無い病は」

「確かに見る人によってはガラクタに過ぎないかもしれないが、僕にとっては全て思い出に等しい代物なんだ。例えばこんな紙切れ1枚でも、太古の街ヨウルトルットゥで入手したお宝の在処が記されて────」

「はいはい。それでミルフィ、旅に出るならやっぱり道具(アイテム)が必要でしょう?用意しておいたから」

「あ、ありがと、お母さん」


これ以上は長くなりそうなので、話半分でとっとと切り上げたエヴァンタは机に『それ』を置いた……いや、置くというよりかは落とすに近かった。


ドタッガチャガチャバッタン!という、耳を覆いたくなるようなけたたましい重低音の後、そこには、食卓用の机などでは決して並び切れない、甚大な量のアイテムの山が築かれていた。


「それ、全部持っていきなさい」

「全部!?」


予想外であった。

堪らずミルフィも素っ頓狂な声を上げて聞き返していた。


「冒険に出る前に、剣とアイテムがトドメで私圧死するよ!?」

「ミルフィならそれくらい持てるでしょう?大丈夫よ」

「違うの! 明らかに今から初めて冒険に出る人の荷物の質と量じゃないの!」


この父と母、違うベクトルでズレてる……とその娘であるはずのミルフィでさえもドン引きしてしまう。


何というか……うん、過保護。

とにかく過保護なのである。


「でも……折角こんなにあるんだし使わないとね。このポーションだって、賞味期限があるのよ?」

「そうだぞミルフィ。賞味期限が切れたポーションを勿体無いからといって、ママに1日3本ペースで飲まされて、無意味に体力と魔力を回復させ過ぎた挙句、食道炎になって暫く身動きが取れなかったんだよ」

「ふふっ、そんな事もあったわね。何だか懐かしいわ」

「いや、完全に自業自得じゃん。沢山持って帰って来るからだよ……」


治癒アイテムであるポーションは、飲めばたちまちHPを回復出来るという、冒険家にとって必需品と言っても過言ではない、鉄板の回復アイテムではあるが、過度に飲み過ぎると身体に異常を来す恐れがある。


アイテムの説明欄にも「用法容量を守って正しく飲みましょう」と記載してある所を見れば、実はどれだけ危険な代物かというのは、察するに余りない。


ミルフィは無造作に置かれたアイテム達をガサゴソと漁りつつ、必要な物だけを吟味していく。


回復薬(ポーション)5本、魔力回復薬(マジックポーション)5本、毒消し草、麻痺治し草、万能治癒薬……ねぇ、ポーションと治癒薬だけで良くない?」

「嵩張るかもしれないが、予備として持っておく事を強く勧めるよ。お父さんも、何度この毒消しに救われたか……」

「そんな頻繁に毒貰ってるの?盛られすぎじゃない?」

「冒険には想定外がついて回る。特に状態異常の類は、前線であればあるほど貰いやすい特性があるんだ。ミルフィも1人前の冒険家になるなら、尚のこと覚えておくべきだね」

「そ、そうだね……じゃあ」


と、ミルフィは引き攣った表情を浮かべながら、手近の回復薬一式と毒、麻痺、凍傷治しの草と万能治癒薬、それに追加して、非常食として用いられるグラブの実を一掴み程度鞄の中に入れ込んだ。


「……いよいよ明日ね、ミルフィ」

「うん。ここ1週間くらい楽しみすぎてまともに寝れてないよ」

「今日はしっかり休むのよ?困った事があればいつでも帰って来て良いんだから」

「分かってるよ。ありがと、お母さん」


生憎、これまでミルフィはこの地から1人で離れた事が無い。


スモアの村は比較的小さな町で、ただ生活していくだけなら不自由さは感じないものの、いち冒険者が住まうにしては、少々物足りないこぢんまりとした田舎町であった。

武器屋や防具屋は数店あるが、言い換えれば「たったそれだけ」であり、冒険家を目指す人々が通う冒険家養成所や、魔法職をメインで扱う人々が通う魔法学校なる鍛錬施設は、スモアには残念ながら存在しない。


だが、ミルフィの父であるビューニは、前衛を直走るような現役の冒険家であり、何度も世界を救った事があるという伝説の冒険家(ただし自称)とまで謳われているらしく、そのノウハウを幼少期より叩き込んでいる為、そういった養成施設はミルフィには不必要なのだった。


やはり、これも父の血が遺伝した結果なのか、元より筋が良く一般の冒険家でも1か月は超過してしまうはような厳しい修行を、ミルフィはたったの1週間で物にした際には、


(剣の太刀筋といい、ほぼ無学の状態でここまで覚えが早いとは……! 僕の娘とはいえ……ミルフィ、なんて恐ろしい子……!)


と、大物冒険家である筈のビューニを戦慄させる程である。


そんな父からのお墨付きを貰ったミルフィの、目的の無い旅立ちの日はすぐそこにまで迫っていた。




まずは、第1話読了お疲れ様でした。

そしてお久しぶりでございます、雛上瀬来と申します。


以前は別タイトルの方を書かせて頂いておりましたが、この度満を辞して再び投稿していこうかと思います。


遅筆故、なかなか次話が投稿されないと話題の雛上ですが、お許し頂きたく……。


感想などいつでもお待ちしております。

私が泣いて喜びます。

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