コロナころころ
そのオッサンは最後に会議室へ入ってきて、椅子に座るなりタバコに火を点けて、
「おれ、なんだか熱っぽくってさあ」と言い、ひとつ咳をした。
それを聞いた他のオッサンたちは、
「おめえ、コロナじゃねえだろうな。なんで来たんだ、早く帰れ」と口々に言う。
二〇二〇年の春、世界中がコロナウイルス騒ぎで殺気立っている娑婆で、咳や熱がある人間が、ぜひ出席する必要もない会議に出てくるとは、疫病神でも来た雰囲気になり、皆、帰れ帰れと咳をしたオッサンに言う。
その咳オッサンは、ゆっくりタバコを吸い終わると、
「おれ、帰るかなあ」腰を上げ帰った。
残ったオッサンたちは、帰って良かった、とか、なんであいつ具合悪いのに来たんだ、マジにコロナならどうしよう、好き勝手なことを言っている。
去年の暮に中国の武漢から発生した新型コロナウイルスに、地球規模で感染者が出て死亡した方も数多く、ただでさえ不要不急の外出は控えてくれと政府から言われている中、会議を主催する責任者だけ電話で話し合えばいい内容だが、それでも役員をやっているので純三はその会議に出たが、まさか風邪気味の役員まで出てくるとは思わなかった。
その夜、純三は家族にその話をすると、妻や子供、婆さんに変な目で見られ、夕飯を済ませると風呂に入らずすぐに布団に入り、翌日は体調は悪くなかったが、一日布団の中で過ごした。だが体調に変化はなかったので、夕飯は家族で食べた。
数日後、純三は、咳をしていたオッサンが軽トラを運転していたのを見かけたので、元気になって良かったなあと胸をなでおろした。
このオッサンは、単なる風邪だったかもしれないが、世の中にはとんでもない自覚のない人もいて、コロナウイルスに感染しているとわかっていても、友達に会ったり高速バスに乗り結果、コロナウイルスを撒き散らしている人物もいる。
そうかと思えば、感染防止のため政府から、接客を伴う飲食業や大勢人が集まる舞台の興行など、営業の自粛を求められている昨今、なかなかそれに応じないパチンコ屋がある。営業するからにはお客がいるからで、下手するとコロナに感染して死ぬかもしれない場所に、わざわざ出向いて散財する人の気持ちが純三には理解できない。まあ、世の中、いろんな考えがあるということだろう。