パフェ大好きな天才藤守さん
五丁目の交差点を左に曲がり、ラーメン屋と散髪屋の間にある路地の中にある隠れたスイーツの名店。
今日もそこへ、一人の女性が向かっていた。
るんるんるん、とリズミカルなステップ、制服を着て路地へと入る。
カランコロンカラン、と懐かしの鈴の音が響いた。
窓際には長いテーブルと椅子、店内の中央にはスイーツの食品サンプルが並べられている。
縦三段横七列分のスイーツ、それらは一ヶ月ごとにメニューを変え、常連でも全てのスイーツを食べたという猛者は未だ現れない。
それもそのはず、この店は毎日来れるほど安くはない。
どのスイーツも一律一万円、だが、全ての客はその金額以上の満足感を得て帰っていく。
彼女もまた、無限の満足感に洗脳され、すっかり常連となっていた。
時給千二百円、週三日働き、稼いだお金で店へやって来る。
彼女の生きがいは、この店となっていた。
今月になって初日、全てのメニューが変わっていることに気が付き、期待に胸を膨らませていた。
モンブラン、ショートケーキ、マカロン、ホールケーキ……などなど、商品を眺めるだけで食欲が溢れ出る。
ルビーのように真っ赤に輝く赤い苺、ウェディングドレスのように純白な生クリーム、どれを見ても心が踊る。
「美味しそう」
つい心の声が漏れた。
おもちゃを眺める子供のように、純粋な瞳でスイーツを見つめる彼女を見て、店員は穏やかな表情を浮かべていた。
じっと眺め続けること一時間、どれを買おうか決まらない。
自分では決められない、そう悟った彼女は言った。
「こ、今月のおすすめって何ですかね?」
「今月のおすすめは『ビターなチョコと苺ソースの皇女宮殿パフェ』です」
「きゃ、きゃっするぱふぇ?」
聞き馴染みのない単語に困惑する。
「このパフェは名前の通り、城のように大きく、尚且つ上品さ溢れる一品となっています」
「で、でかい……ですと……」
「はい。お客様はまだ若いですし、そちらに挑戦するのも良いと思いますよ」
自分の胃袋に収まるか、そんなことを考えるよりも先に、胃袋が叫んでいた。
「早く糖分を、スイーツを、パフェを食わせろ」と。
「それで……それで、お願いします」
「はい、少々お待ちください」
注文してからパフェは作られ、待つこと五分、椅子に腰掛ける彼女のもとへパフェが届けられた。
ドクン、ドクン、恐る恐るパフェを見た。
彼女は驚愕した。
自分の上半身と同じ大きさのパフェが届けられたのだから。
「なっ……もはや一日分の食事」