第二章 昭和マンションにやられた
これからどんどん展開する、
次章ももう書き始めてます。
おい。
おいおい。
このマンション、
エレベーターねぇぞ。
全6階あるのに、
エレベーターねぇぞ。
確かに5階まで登るのはまだ29歳の僕にとって難しくはない。だけど階段上りの疲れなどより僕が言いたいのは、
エレベーターがないってことは、多分監視カメラもないということだ。
それだけじゃない。エントランスには確かに管理人室はあったが、この建物は結構前から管理人など付けていなかったみたいだ。そこのカメラもとっくに壊れてる。
つまり、今日来た人間と来た時間を把握する手段がない。
困る。
まいった。
言えばこのマンションが共犯者みたいなもんだ。僕、ここの所有者とりあえず取っ捕まえていいのかね、タダシくん?
「ダメに決まってるんでしょうか。」
「僕はまだ何も口に出していない…」
「顔見りゃわかりますわぁ。
とにかく本題に戻りましょうね。」
「はいはい。
マンションの住人情報を照合した、それで?」
「部屋が分かったので、警察官は管理会社の人にここを開けてもらったんです。」
「そこで、これか…」
「そうです、このリビングで第二の死者を発見しました。」
「第一の死者の発見から管理会社の人が来るまでどれくらいかかった?」
「通報から約10分で警察官が駆け付けて、そこで住人情報を確認するために管理会社に連絡、そして人が来るまでは20分くらいかかったらしい。」
「通報は18時1分、署に電話入ったのは47分だから、管理会社の人が来て、そして身元確定まで10分しかかからなかったのか?」
「ええ、住人の情報には写真が付いてますからね、確定にはそんなに時間はかからなかったみたいです。」
「それはそうと、
あれはなんだ…?」
僕はドアの前にいる二人の男に目をやる。一人はがっちりな体型でもう一人はロン毛メガネ、だけど二人とも深刻な顔をしている。
「あれは二人の死者が所属する団体のマネージャーさん。」
「マネージャー?芸能人か?」
「うん…聞いた所、『バーチャルユーチューバー』ってのをやっているみたいで…」
「…バーチャル?何それ、ユーチューバーなら僕も時々見るよ、農園やキャンプとか。
そういうのってマネージャーいるのか?」
「わかりませんね。俺も詳しくないので…バーチャルってのもイマイチわかりません。
…ググってみたらどうですか?」
「もうやってるよ。」
「……」
「……」
「でも調べてもすぐに理解できないものだから、無駄だと思いますけどね。」
「…わざわざ間を開けてからそれ言うのもな…」
「いやぁすみません。面白そうだからつい……
直接あの二人に聞いたらどうですか?」
僕はタダシに呆れた顔を見せながら、あの二人の前に出る。
しばしの談話で、死者身辺についての情報も少し手に入れた。
この二人のマネージャー、筋肉質の方の名前は天満陽斗、24歳。
体型から察するに昔は何らかのスポーツをやっていたと思ったが、意外とそうじゃないみたい。ただ週一回にジムを通ってるだけ。
もう一人の名前は、南原陸、25歳。何と言うべきか、癖のある外見だ。天パでロン毛、体型はやせ細っていて、メガネ。天満からは『先輩』と呼ばれている。
そしてこの二人がマネジメントしている『バーチャルユーチューバー』…以降は『Vチューバー』と略称する、は5人で一つのグループを結成していて、マネージャーは今の時点でこの二人だけ。
グループ名は『饗宴』、
メンバーは以下の通り:
花木スティッキー
天羽ラム
静女しゃしゃみ
木崎みつじ
サオリ・オードロー
の5人。
そして今回の死者……ううん、これからは便宜上、こっちの名前で呼びましょう。そう、死者の二人はそのグループのメンバー、『Vチューバー』の天羽ラムと静女しゃしゃみである。
正確に言えば、一人目、落下した死者は天羽ラム。そして二人目、この部屋の中で発見された死者は静女しゃしゃみ。
「……………………」
僕の隣に立っているタダシはずっと解せない顔で話を聞いていた。
「ネットでの名前だ、大目に見てやれ。」
「………………」
わかるわかる、言いたいことはわかる。でもここは客観的な目でまず事件を見ようぜタダシくん。
「まだキラキラネームに耐えられない歳じゃないはずだろうお前。
そしてなぜ一人の名前が他4人とまったく違うパターンかってツッコむのもなし!」
「……~~」
僕は目を逸らしたタダシを無視して、引き続きマネージャーの二人に聞き込む。
このグループの結成は去年6月。5人もその時期で『Vチューバー』として『デビュー』したらしい。もっとも、事務所の規模は小さくて、他の部門を除いて最初はずっと南原がこのグループの五人をマネジメントしていたが、去年10月で天満をマネージャーとして雇入れた。
死者2人の今日のスケジュールに関しては、静女しゃしゃみは今日特に予定は入っていないが、天羽ラムは午後14:00から生配信をしていたらしい、配信は約3時間続いた。そして彼女らの人間関係についても詳しく聞きたかったが、プライベートに関しては事務所も基本的に干渉しない方針でいるため、何とも言えないみたいだ。でもこの『饗宴』というグループの他のメンバー3人の連絡先は教えてもらった。
それらを全部記録した後、僕は恒例のように「最近死者の周りに変なこと起きなかったか」と聞いた。
すると、とてもとても人の関心を引く話題が転がり込んできた。
二日前に、天羽ラムはストーカー被害を受けていた。
当日は警察に相談して、被害届も出したらしい。
これを聞いたタダシはすぐに署に電話を入れて確認しに行った。僕が目で指示を飛ばそうとしたが、どうやらその必要もなかった。
にしても、ストーカー…か。
またまた妙な話になった。
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