一章 脳天直下
遅れて申し訳ございません!
19時09分、僕らは現場に着いた。
ここは署から車移動で15分くらい距離のマンション。
現場の警察官に案内されて、僕らはそのマンションの真下に来た。そこが一人目の死者の発見場所らしい。
もう一人の死者の方はタダシに行かせた。鑑識係たちもいるので、大丈夫でしょう。僕は懐中電灯を付けて他の係官と一緒に第一死者の発見現場へ。
マンションの下は駐車場になっている。壁際には自販機が数台並んでいて、その手前に1台の軽トラックが停まってある。
既に先着した警官たちがそこを囲んでいる。今はちょうど帰りの時間帯で、駐車場は他の住人達も使うため封鎖はできない。警戒線も広く張れないっぽい。集ってきた野次馬を追っ払いずつ、主にトラック周辺を重点的に捜査するしかない。
さて、肝心な事件に関してだが、
その軽トラの下に死体が転がっている。服から見たら女性だと判断する。どうやら後輪で轢いちゃったらしい。
だが死体の状態と地上の血痕から見ると、高所から墜落したのに間違いない。
転落に加えてトラック、その姿は凄惨である。多くは語らないでおこう。
死体のポケットには携帯や身分証明みたいなものはなかった、もしマンションの住民なら、何も持たずに部屋からそのまま飛び降りた可能性がある。
僕は思わず上を向いてしまう。そういえば第二の死体の通報もあったな、ということはあれも多分この死体と何らかの関係のある人間である可能性が大きい。身元の確認はあとでタダシと合流したらまとめて聞こう…今は置いといて、思慮はこっちに戻す。
「……おっ」
よく見ると、死者はネイルを付けている。墜落衝撃のせいか、何個かのネイルが欠けてしまってはいるが、すぐそばに欠片があった。念のため証拠品として回収させよう。
そして、そのトラックの運転手、釘谷翼(44)は、同時に通報者でもある。
彼は自販機商品配送のトラック運転手で、本人によると、今日も商品補充のためにここに来た。このトラックは確かに彼が運転してる、この点については既に照合できた。補充はいつも一人でやってるそうだ。
釘谷曰く、ここでの仕事が終わってそろそろあがろうとしいた時だった。車をバックしてる最中に突然すごい音がした。当人は反射的にブレーキを踏んだが、急ブレーキを踏み切っているではなかったため、車は慣性で完全に止まってた状態ではなかった。その時に何かが後輪にあたっていると感じて、急いで降りて確認する所、その女性が轢かれていて、息もしてない状態だった。
記録に残っている通報の時間は、18時01分。
駆け付けた警察官によると、到着時死体の頭部はタイヤに巻き込まれている状態だった。僕より先に到着した鑑識の人が入って撮影したのちに、それをどかしたみたい。そして死体発見時、この駐車場に他にも何人かいた。それぞれバラバラでかけ離れた場所にいたため、釘谷が言う「すごい音」は聞こえたが、それが何なのかはすぐにはわからなかった。
今みたいな5月初頭の日没時間は大体午後6時前後、通報の時間は18時04分。その暗さでわざわざ仰向かない限り、何かが落ちて来るのを見てた人間がいなくてもおかしくはないだろう。
問題は釘谷の証言だ。人が落ちてるのにすぐに急ブレーキを踏まないのはなぜだろう、そこが少々引っかかる。
僕はトラックの運転席に上がってみた。バックミラーは付いてるが、後ろにはバンボディがあるため、使い物にはならない。バックモニターはない、あとはサイドミラーだけ。こう考えると確かに真後ろは死角になる。
続いては荷台の確認。後部には落下衝撃によるダメージは見つからなかった。つまり死体はトラックにぶつからず地面に衝突したということだ。リヤバンパに血が付いているが、形から見れば多分落下時に飛び散ったもの。
後輪部からのリヤバンパまではそう長くはない、つまり釘谷が言ったことは怪しいだが、可能性はある。現段階ではこれくらいの推測しかできない。
さてと、さっき確認した所も一通り手持ちのカメラで撮影した。釘谷に関してはこのあと署で事情聴取するが、終わったら即解放で構わない。正確な死因は解剖結果を待つしかないし、現段階では得られる情報もできる推理も少ない。
だとすると……残りは身元の確認だけ。それについては、今上にいる奴らの方が詳しいだろうな。
…タダシと合流しようか。
細かいことを係官たちに任せ、僕はこの薄暗い駐車場と野次馬たちを後にし、マンションに入っていった。
時刻は、19時53分。
目的地は、508号室。死体発見場所の真上だ。
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