第73話 決意
ミハエル達はサーシャの両親の好意で屋敷に泊めてもらえる事になった。そして今、少し遅いお昼ご飯を食べようとしていた。
目の前には野菜やお肉を刻んで炒めたものを卵で包んだ〈卵の包み焼き〉をメインに野菜スープやパンや果物がふんだんに並べられていた。
「さあ!皆さん遠慮なく召し上がってください!おかわりはありますからどんどん言ってくださいね!」
サーシャの母エミリが声を掛けると皆がホークとナイフを両手に持つ。
「いただきまーす!」
皆、お腹が空いていたらしく目の前の料理に襲い掛かっていた。
「これ美味しい!!この包み焼きおかわりください!!」
サリアはおかわりを頼むとそのまま包み焼きを口いっぱいに頬張り美味しそうに堪能していた。
「うん!!本当に美味しい!!宮廷魔道士でも下っ端だからこんな良い物食べれなかったよ!・・・だけど孤児院にいた時に比べたら毎日3食ご飯が食べるだけ良かったけどね・・」
ライナードはセルフィア王国に来る前の生活を思い出し手が止まる。
「そうだね・・あの頃は1日1食あれば良かったよね・・・皆んなどうしてるかな・・・」
カリンも一点を見つめて手が止まってしまう。
皆んな色々と苦労してここまで来たんだね・・・それにこの2人は・・・
ミハエルも自分が歩いてきた道のりを思い出しながら2人を見ていた。
そして2人に声を掛けようとするといつのまにかサーシャの母エミリが2人の肩に手を乗せて優しく語りかけた。
「貴方達は今を生きているのよ。過去は前に進む為に使いなさい。立ち止まる理由にしちゃ駄目よ。
さあ、今は目の前の事に集中して!お腹いっぱい食べなさい!!」
2人はエミリに振り返り涙を拭いて吹っ切れたように笑う!
「「はい!いただきます!!」」
エミリは優しく頷き我が子のようにその姿を見守るのだった。
そしてその様子を皆が手を止めて微笑ましく見ていた。
ふっ・・さすが母は強しか・・そう言えば、母さんは元気にしてるかな・・・
ミハエルも母ソフィアを想うのであった。
「ふはぁ!!もうお豆1つ入らない・・」
サリアがはみ出したお腹をパンパンと叩くとエミリが残念そうな顔をする。
「そうなの?食後のデザートがあるのよ?」
「頂きまーす!!!」
即答でサリアが手を挙げる!!
「「「「「食べるんかい!!」」」」」
全員で声が揃う!
「デザートは別腹よ!!でもね・・さっきの話・・実は私も天涯孤独なの!親の顔も知らないのよ。
私は物心ついた時にはスレイド王国領内の街サリドルで生活していたわ。住んでいた家は頑丈な作りの監獄みたいな家だったの。そこには私の他にも女の子ばかり13人の子供達が生活していたわ。毎日朝から晩まで働かされて僅かな食糧を皆んなで分ける生活だったわ。でも私はずっと家の前に捨てられていたと言われていたからそれでもいいって思ってた。
でもね・・10歳を過ぎると里親が出来たと順番にどこかへ連れて行かれるの。
それで私が10歳になった日に偶然男達の話を聞いてしまったの。
スレイド王国は孤児を受け入れて育てると子供が10歳になるまで毎月補助金が出るの。それもかなりの額よ。それを目当てで子供を攫っていたのよ。
だから10歳になった子は・・奴隷商に売られていたの・・・
その時私の中でなにかが弾け飛んだの・・その時の記憶はないわ・・・気付けば子供達以外は焼け野原になっていたの・・子供達に男の話をしたけど信じてもらえなかった。住むところが無くなったと責められたわ。
私は仕方なくその場を立ち去った・・あの子達がどうなったかは知らない・・」
いつも明るいサリアが俯いて口元を歪める。
皆はどう声を掛けたらいいか分からなかった・・普段の明るさからは考えられないほどの道を歩いて来たのだ。
エミリも手で顔を覆い肩を震わせていた。
するとサリアがけろっとした顔を上げる!
「だからさっきの話しよ!!過去なんて悩んだってどうしようも無いのよ!今よ!美味しい物食べてる今があればいいのよ!!サーシャさんのお母さんの言葉で改めて思ったわ!
ありがとうございます!」
サリアがエミリにニッコリ笑うとエミリはたまらずサリアを抱きしめた。
「わっ!」
「なんて子なの・・・こんな歳で・・・」
サリア・・凄い子だよ・・・よし!決めた・・・
エミリはひとしきりサリアを抱きしめると涙を拭いた。
「そうね!食べて!!デザートもおかわりはあるからね!!さあ!皆んなも食べて!!」
エミリは小走りで厨房へと消えて行った。
「次はミハエル君よ?」
サリアがニッと笑って催促して来るが3人の話がインパクトがあり過ぎて話しづらくなっていた。
「う、うん。僕は普通だよ。苦労したのは母さんだよ。僕はずっと母さんに守られて来たんだ。皆んなのように苦労はしてないんだ。・・・だけど・・・決めたよ。僕はここに居る皆んなを強くする!過去なんて吹き飛ばすぐらい強くする!これからの人生を笑って過ごせるように!過去の苦労を笑って話せるようにね!」
ミハエルは今まで人を信じきれずに躊躇していた。しかしこの機会に自分に集まって来た仲間を信じる事にしたのだ。
ミハエルはチラリとアンリルを見ると軽く頷きながら”いいんじゃない”という顔をするのだった。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!なんて子供達なんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!くぅぅぅぅぅぅ!!感動したぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
皆がびっくりして声のする方へ振り向くと、
黙って聞いていたサーシャのお父さんが号泣していた・・
「あ・・お父さん・・泣き上戸だった・・」
サーシャが困った顔で父親の顔を見るのだった・・・




