第62話 到着
「うっうーーん!!はぁ!!もうすぐ着くわね。」
うたた寝をしていたアンリルが起きて伸びをしながら外を眺めている。
「やっと着くんだね!・・でも、何かちょっかいを出してくるかと思ったけど・・何も無かったね・・・」
ミハエルは周りを探りながら首を傾げる。
「そう言えば・・そうね・・・なんか気味が悪いわね・・・」
絶対どこかで仕掛けて来ると思うんだけど・・・まあ・・何があっても大丈夫だけどね・・・
「ほ、報告します!!」
「うむ。聞こう。」
セルフィア王は背もたれに身体を預ける。
男は跪き悪い報告をしなければならない重圧に耐えながら口を開く。
「・・先日クラインド王国に偵察に行ったセルログ達は失敗して処刑されたとの事です・・・」
一瞬でセルフィア王の顔色が変わる・・・報告された言葉を頭の中で何度も咀嚼する・・
「な、何だと?!処刑?!何故だ?!」
セルフィア王は背もたれから弾けるように前のめりになる!
「聞けば、クラインド王国の学園に魔物を放った罪で処刑されたようです。」
ば、馬鹿共が・・・何をしておるのだ?!そんな事をすればクラインド王が黙っておる訳があるまい・・・人選を誤ったか・・だが・・あいつらの正体は知られていないようだな・・・それが幸いか・・・
セルフィア王が眉間に皺を寄せて居ると、再び偵察隊の男が飛び込んでくる!
「ほ、報告します!」
「今度はなんだ?!」
男は跪き震える声で口を開く。
「・・ガイル部隊35名・・全滅しました・・・一命は取り止めましたが・・再起不能と思われます・・・」
「な、なんだと・・・あのガイルの部隊がか?!確かなのか?!一体何があったのだ?!」
セルフィア王はこめかみにはち切れんばかりの青筋を立てて捲し立てる!
「は、はい!確かです!今、療養所に運び込まれて治療にあたっております。
なにぶん口をきける者がおりませんので詳細は分かりません・・・しかし現地に巨大な窪みが出来ていたと報告がありました。」
窪み?!・・・となると・・一撃か・・ガイルの部隊は〈魔法防御〉を魔法付与された鎧を着ていたはず・・・どう言う事だ・・・くっ・・・
「ええい!!考えても始まらん!!奴らがもうすぐ来る!捕縛してここへ連れて来い!この国から逃すな!!いいな!?」
「はっ!」
男は一目散に出て行った。
セルフィア王は一抹の不安を抱えていた。セルログ達も弱くはなかった。だが捕まり処刑された。ガイル部隊は手練れを集めた最強部隊だと自負していたのに再起不能にされたのだ。
セルフィア王は思う。ただの偶然であって欲しいと・・・
「見えて来たわよ!!あれが魔法国家セルフィア王国よ!」
ミハエルも急いで馬車の窓から顔を出すと思わず声が出る。
「うわー!!凄い!!」
崖の上から見るセルフィア王国は巨大な五角形を形取りその中央に威風堂々と城がそびえたっていた。
魔法国家と謳っているだけあって王国全体からは魔力が渦巻いているのであった。
「それにしても凄い行列だね・・・」
目の前にはセルフィア王国に入る為に待つ人や馬車の行列が伸びていた。
「あれには理由があってね・・・入る時に10歳以上は魔力測定があるのよ。
魔力測定で一定の魔力があるとセルフィア王国にスカウトされるのよ。これを狙って来る人もいるのよ。」
「へー・・魔法国家だけあるね。国外の素質ある人間まで集めるんだね・・・。」
「でも・・いい事ばかりじゃないの。スカウトを受けたら自由は無くなるわ。セルフィア王国から出る事は出来なくなるし国からの召喚命令は絶対よ。断れば処罰の対象になるのよ。迂闊に受けたら一生飼い殺しよ・・・それにセルフィア王よりも魔力が高いと判断されると・・・」
無意識にアンリルの眉間に皺が寄る・・・
ミハエルはアンリルの表情でなんとなく察した。
・・・そうか・・自分より優れた者は・・・ってやつだね・・・
「よし!次!!さっさと来い!!子供以外は全員身分証を出してこの石板に手を置くんだ。」
門兵の男が面倒臭そうな顔をしながら事務的な流れ作業で進めて行く。
(僕は子供扱いでいいんだよね・・・)
(そうね。7歳だから問題ないわ。ミハエル君の魔力を見たら面倒な事になるからね・・)
そうしているうちに馬車の操車2人が受け付けを終える。
「次は私達ね・・・」
アンリルは警戒しながら門兵に身分証をさしだした。
門兵は黙って受け取るとアンリルを一瞥して身分証に目を移すと案の定表情が変わった。
こ、これは・・・Sランク・・・賢者・・アンリル?!・・・待てよ・・確か・・
門兵は身分証とアンリルの顔を交互に見ると懐から紙を取り出し確認するように目を走らせる。
「お、おい!その子供の名前は?!」
やっぱり・・この様子だと私達が来る事は知らされているみたいね・・・
「僕はミハエルと言います!よろしくお願いします!」
ミハエルが子供っぽく元気に答えると門兵は確信する。
ま、間違い無い・・・指示書にある2人だ・・
お、落ち着け・・・
「よ、よし!あ、案内させるからこいつの指示に従ってくれ!」
明らかに動揺している男はもう1人いる門兵に黙って指示書を渡すとやはり表情が曇る。
「あ、案内する。こっちに来てくれ。」
アンリルとミハエルは顔を見合わせて頷く。
・・・何かあると・・・
「ねえ?魔力測定はしなくていいの?」
アンリルは意地悪く門兵に聞くとビクッと肩を跳ね上げて目を見開く。
「あ、あぁ、そ、そうだったな・・・ここに手を置いてくれ・・・」
アンリルが黒い石板に手を置く。
ビキッ!ビキビキビキっ!!
「なっ?!何っ?!」
「あっ!!・・・割れちゃった・・・」
石板は一瞬金色の光を放つと無数のヒビが入って割れてしまった。
アンリルが門兵の顔色を伺うと割れた石板を凝視して固まっていた。
・・・い、今・・金色の光が・・・
この魔力測定器はセルフィア王の魔力を基準にしていた。
石板が金色に光ればセルフィア王を凌ぐ魔力であると言う事である。そしてその石板が割れたのだ・・。
まあ、どうせ・・・
「い、いいだろう・・・通ってくれ・・」
門兵はこめかみを引き攣らせながら道を開けると、そこへミハエルが割って入った。
「あーあ!アンリルさん!駄目だよ壊しちゃ!ちょっと待ってね!」
ミハエルが石板に触れて魔力を注ぐとみるみるうちに石板が復元される。
「はい!!元通りだよ!」
「な、何っ?!何をした?!」
門兵は石板を手に取り確認する。
するとミハエルはニッコリ笑い首を傾げる。
「な・い・しょ!!アンリルさん早く行こう!」
ミハエルは困惑する門兵を後にしてアンリルの手を引いて門を潜るのだった。
(ミハエル君、何かしたわね?)
(うん。魔力の基準を僕の魔力にしたの。
魔力10億以上じゃ無いと金色に光らないよ)
(そ、それじゃあもう2度とセルフィア王より魔力がある人間は現れないって事ね!)
(ふふっそういう事!!)
ミハエルは満面の笑みを浮かべるのであった。
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