第60話 世界神
「・・メイシスよ・・・」
「な、何?!この力は・・・」
メイシスは震える程の力を感じて振り返るとそこには黒のタキシードを着こなした男が凛と立っていた。
「あ、貴方は・・そのオーラは・・・もしや・・世界神様?!」
メイシスは慌てて跪いて頭を下げる。
「メイシスよ。そんなに固くならなくても良い。それより私の手違いで世話を掛けたな。
まさかイルバスの子孫に転生するとは思わなかったのだ。許してくれ・・・」
世界神がゆっくりと綺麗な姿勢で頭を下げる。
「と、とんでもございません!!頭をお上げください!!」
メイシスは慌てるが世界神は身体を起こして話を続ける。
「うむ。メイシスよ。私はこのミハエルを気に入っておるのだ。そこで詫びの証に少し手助けをしようと思う。」
「な、何と勿体無きお言葉!!感激至極でございます!!」
「メイシスよ。イルバスを解放してやって欲しいのだ。私が話をしようと思う。」
「で、ですが・・ミハエルの身体と心が持つか・・・」
「ふっ。ミハエルなら大丈夫だ。私が護っておるのだ。それに・・考えてみよ。光と闇、善と悪、まるで人間ではないか。100%の善の人間も100%の悪の人間もいないのだ。善と悪の調和で人間は出来ているのだ。
メイシスよ。イルバスと手を取りミハエルを助けてやってくれ。」
「はっ!仰せのままに!」
メイシスは跪くとそのままイルバスを抑えている光の結界を解いた。
するといつの間にかメイシスの隣に上下黒で統一したミハエルの面影を残した男が跪いていた。
「世界神様。イルバス参上致しました。お話は聴こえておりました。俺も異存はございません。
俺は数え切れない程の命を殺めました・・メイシスの両親さえも・・このままメイシスに封印されたままでも良いと思っておりました。」
イルバス・・・あなた・・わざと封印されていたの・・・?
「イルバスよ・・あれは暗黒神の呪縛があったからだ。今はその気持ちがあれば良いのだ。
お前が解放されればミハエルは更なる力を手にするだろう。だが、その力に振り回され無いようミハエルを助けてやってくれ。」
「「はい。お任せを!」」
世界神はメイシスとイルバスが声を揃えると満足そうな顔をして消えて行った。
イルバスは立ち上がりメイシスを見る。
「・・メイシス・・俺は・・・」
メイシスは言葉を遮りイルバスを抱きしめる。
「いいの!!あれは暗黒神ルビラスの仕業!
あなたじゃ無い!もういいの!もう苦しまないでいいの!!これからは一緒にミハエルを見護ましょう。」
「・・ありがとう・・・・メイシス・・」
イルバスの目には大粒の涙が溢れ本当の意味での呪縛から解放されるのだった。
「うむ。これで良い。・・・そうだ。今までミハエルを助けてここまで来た者がいたな・・・よし!ものはついでだ・・・彼奴に相談してみるか・・・」
ミハエルとアンリルは国境の街イルシスを出発して馬車に揺られていた。
「そうね。闇の加護は取り敢えずメイシスに任せておくしか無いわね。」
「うん・・気を付けていれば大丈夫みたいだからね。」
しかし、いつ〈闇の加護〉が解放されてもおかしくないのである。解放されたらどうなるのか?周りに影響は無いのかと不安は募るばかりであった。
するとアンリルは難しい顔をしているミハエルのほっぺたを左右に引っ張る!
「えいっ!!」
むにぃ!!
「あぶっ!!にゃにをしゅるの?!」
「眉間に皺が寄ってるわよ!今、どうしようもない事を考えても暗くなるだけよ!それこそ〈闇の加護〉が解放されるわよ?ミハエル君だったら大丈夫よ!そんな気がするわ!!」
私の想像が正しければね・・・
アンリルはミハエルの顔を覗き込むとニッと笑ってみせる。
・・・そうだね。考えても答えは出ないね。
「アンリルさんありがとう。何かあったらよろしくね!」
「もちろんよ!さあ!セルフィア王国まであともう少しよ!帰りにまたイルシスに寄るから続きを教えてよね!!」
もう既に帰りの事しか頭に無いアンリルは子供の様にワクワクしていた。
「もう!アンリルさん!目的が変わってるよ!僕達はセルフィア王に会って・・・・んん?!」
・・・あ、あれ?・・・何?・・この溢れる魔力は・・・何が・・・
ミハエルは突然自分の魔力が跳ね上がるのを感じていた。
そして同時にアンリルもとてつもない魔力に警戒する。
「ミ、ミハエル・・・君?その魔力・・ど、どうしたの?指輪・・・してるわよね?・・・っ?!これは・・・魔力が・・・黒い?!・・・いえ!違う!!
半分は光の魔力・・・ま、まさか・・・闇の魔力・・もう〈闇の加護〉が目醒めた?!」
1/10000のステータスの筈のミハエルから指輪をする前の魔力以上の魔力が溢れていた。
「わ、分からないよ・・・僕の中で何かが現れて・・何かが目醒めた・・そんな感じ・・・・」
するとミハエルは途中で突然項垂れて動きが止まった。
「えっ?!ミハエル君?!大丈夫?!ねぇ!!ミハエル君?!」
アンリルは焦ってミハエルの肩に手を掛けて声をかけるとミハエルが突然顔を上げる。
「・・・心配しなくてもよい。大丈夫だ。」
ミハエルは焦点が合ってないまま口を開いた。
アンリルは瞬時に別人と判断して身構える!
「誰?!何者?!ミハエル君に何をしたの?!」
「大丈夫だ。私は世界神ゼムス。ミハエルの身体を借りて話をしている。」
「っ?!これは神託?!世界神ゼムス?!」
「そうだ。長くは話せない。手短に話す。今、ミハエルの中の〈闇の加護〉を解放した。更なる力を手に入れるだろう。
お前はアンリルだったな。ここまでミハエルを導いてくれた感謝の意を込めて贈り物をしておいた。後でステータスを確認するといい。
・・・もう時間だ・・・ミハエルを頼んだぞ・・・」
一方的に話すとミハエルはカクッと項垂れた。
「う、うん・・・僕はどうなったの?」
ミハエルは意識を取り戻して顔を上げると、唖然としているアンリルがいた。
「アンリルさん・・?どうしたの?口が開いてるよ?」
「ははっ・・・ミ、ミハエル君・・・立ち直るまで少し待って・・それから・・ツッコむから・・・・」
アンリルは暫しの間目を閉じるのであった。
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