第20話 ミハエルが村を出ると 2
蹄の音が微かに聞こえてくると遥か前方から砂埃を舞上げながら戦利品で着飾った男達が勝ち誇った顔でこちらに向かって来るのが見えてくる。
『来たぞ!手筈はいいな?』
『はい!いつでも行けます!』
『よし!合図を待て。油断するなよ!』
『はい!』
ガインはデイルに指示を出すといつも訓練場に使っている開けた場所で山賊達を待ち受ける。
すると山賊達は約100m先で減速し、ゆっくりと近付くと、頭のグランがニヤつきながら馬上から見下ろす。
『よお!!ガイン殿ぉぉぉ!!お出迎えご苦労ぉぉぉ!!!みかじめ料は用意出来たか?!』
『お前は馬鹿か?この前土下座して”もう悪さはしません”って言ってなかったか?
性懲りも無くまた来やがって・・・覚悟は出来ているんだろうな?!』
ガインが剣を抜きグランに向ける!
『うっ、うるせぇ!!!しっ、知っているぞ!あの化け物2人が出て行ったんだろう?
あいつ等さえ居なけりゃこっちのもんなんだよ!!
何せこっちには〈神の使人〉が3人も居るんだからな!!』
ガインが内心焦る。
〈神の使人〉が3人だと・・・気配は確かに2人だったはず・・・今、目の前に居る2人・・こいつの言っている事が本当なら・・・既に・・・
ガインか険しい顔をしているとグランがしたり顔で口を開く。
『クックックッ!ガインよぉぉぉー!お前〈神の使人〉は2人だと思ったよなぁ?
お前の予想通りだぜぇ!!
さあ!早く奴を見つけないと大変な事になるぜぇぇ?!ひゃーはっはっはっはぁっ!!』
くそっ!やってくれたな・・・だが中にも手練れがいる!頼むぞ・・・気付いてくれ!
子供達を守ってくれよ・・・
ガインは祈るようにグラン達と対峙するのだった。
『居たよ!あそこ!!』
ニーナが指を差して皆に知らせると素早く物陰に隠れて様子を見る。
〈鑑定〉・・・レベル326・・・称号〈暗殺者〉・・・ステータスがめちゃくちゃ高い!〈神の使人〉ね・・素早さが10万近い・・・
あれ?・・〈索敵〉を持ってる・・・まずい!!!
その瞬間男と目が合う!!
『皆んな!!位置がバレてる!!逃げt・・・あぐっ!!!』
『ニーナ!!!!』
男は一瞬で子供達に追い付きニーナの首に手を回して捕まえる!
『ふん!ガキ共に見つかるとはな・・・俺も焼が回ったか・・・まあいい、これでこの村も終わりだな。』
それにしてもこのガキ・・やけにおとなしいな・・・普通なら泣き叫んで暴れるんだが・・
男が腕に収まったニーナに目を落とすと、
ニーナが不敵な笑みを浮かべながら男の腕の中で静かに口を開く。
『ふっふっふっふっー・・・おじさん・・・まあまあ強いみたいだけど・・・メルト村の誰よりも弱いよ・・・。』
男は背筋に冷たい物が流れるが子供相手に弱みを見せる事が出来ずに声を張り上げる!
『強がるのもそこまでにしておけ!!お前らより弱い訳がないだろ!!
俺がこの腕に力を入れたらお前は死ぬんだぞ?!』
『ふん・・できるものならやってみたら?・・・行くよ!皆んな!!第三段階開放!!!!』
ニーナが叫ぶ!!!
『『『『『了解!!!!!』』』』』
ニーナと子供達が親指、人差し指、中指に付けている指輪を全て抜き去ると今まで抑えられていたオーラが衝撃波となって開放される!!
ずぶぁぁぁ!!!
『ぐがぁぁぁぁぁぁ!!!!』
ずどぉぉぉぉぉ!!!!!
至近距離で開放された力に男は吹き飛ばされ村の柵に叩き付けられる!!
ニーナが悠然と激痛に耐える男に近づいて行く。
『おじさん・・〈鑑定〉が使えるよね?私達のステータスを見てみたら?』
男は思考が纏まらない!自分の3分の1程の歳の子供に吹き飛ばされ上から見られている・・
な、なんだこのガキ共・・・それに・・こ、このオーラは・・〈鑑定〉・・・
男はニーナの鑑定結果に驚愕する!!
『なっ!なんだと?!この歳でレ、レベル348?!そ、それになんだ・・・〈神の使人〉でも無いのにこのステータスの高さは?!お、俺のステータスを遥かに越えてやがる・・・
あり得ん!!!こんな事あり得ん!!こんな歳で・・・』
男は両手を地面に付き10歳にも満たない子供に勝てない自分にショックを隠せないでいた。
『く、くそっ!!!化け物共め!!こんな村2度と来るか!!!』
男が懐から黒い球を取り出して地面に叩きつけると黒煙があがり視界を遮った!
しかしニーナは慌てる事もなく走り出す!
『目眩しのつもり?見えているよ!!!』
ずどぉぉぉぉぉ!!!!
『ぐげぇぇぇ!!!!』
ずざぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
男背中にニーナの強烈な肘鉄がめり込み男は豪快なヘッドスライディングで倒れ込む!
『がっ!がはっ!!な、何故だ!!何故俺の位置が分かる?!
俺は〈隠密〉で気配を消せるんだぞ!!〈索敵〉にも捕まらないんだぞ!!何故だ!!』
男は地面を叩きながら叫ぶ!!!
『教えてあげるわ!!!たとえ気配を消せても!あんたの悪意までは消せないのよ!!』
ニーナが腰に手を添えて男を指差す!(びしっ!!)
ぐっ・・〈悪意感知〉・・こんなスキル知らんぞ・・・ガキごときに・・・仕方ない・・・
男は辛うじて立ち上がり腰の剣を抜き上段に構える。
『ガキ相手にこの剣を抜くとはな・・・悪く思うなよ・・・お前等が悪いんだぞ・・・』
〈鑑定〉・・・
【斬波剣】
〈効果〉斬撃・大
ニーナは振り返り小声で話す。
『皆んな!斬撃が来るわ!アレを装備して!!』
『『『『『了解』』』』』
子供達は指輪を取り出し装備する。
『小細工をしても無駄だ!じゃあな!ガキ共!!!!』
男が上段から袈裟斬りで剣を降り下ろすと剣から大きな弧を描いた斬撃が放たれ、ニーナ達に迫る!!
しかし・・・斬撃はニーナの目の前で霧散して消え去った。
ニーナはニヤリと笑う。
『おじさん?今何かしたの?』
『な、なんだと!!そんな馬鹿な!!ふんっ!!ふんっ!!はぁぁっ!!!』
男は必死に斬撃を飛ばすがやはり子供達に届く事は無かった・・・
ニーナは人差し指を左右に振る。
『ちっちっちっ・・・言い忘れてたけど今の私達に斬撃は効かないよ!
そもそも〈物理攻撃無効〉なの!てへっ!』
『な、なんだと・・・』
からぁーん・・・
男は呆然としたまま剣を落としてしまう。
『ま、待てっ!!待てっ!!待てぇっ!!!ぶ、物理攻撃無効?!さっきの指輪か?!
で、伝説にまで謳われた最強マジックアイテムの1つだぞ?!そ、それがここに6個も・・・』
『違うよ!!6個じゃ無いよ!!村の女の人も持ってるよ!!』
ニーナの後ろから男の子がツッコミを入れる。
『何だと?!何故だぁぁぁぁ!!!この村はどうなっているんだ?!
よ、寄越せ!!そいつを寄越せぇぇぇぇ!!』
男は我を失いニーナに襲い掛かる!!
すると子供達は拳を構えて迎撃体勢に入る!
『残念っ!!これは使用者限定なの!!
皆んな行くよ!!〈悪意滅殺陣〉!!!』
『『『『『了解!!!』』』』
子供達が地面を蹴ると一瞬で男の懐に潜り込む!!
『お前なんかぁぁぁぁーーー飛んでけぇぇぇぇぇ!!!!』
ごきっ!!べきっ!!ばきゃ!!づごっ!!ずむっ!!ごぉん!!!
『ぐぶぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』
ニーナ達の渾身の拳と蹴りが両肩、両膝、股間と顔面に同時にめり込みその勢いで放物線を描いて村の外まで吹っ飛んで行った。
ニーナ達はそれを見送ると円陣を組む!
『悪意滅殺完了!!!いえーーーい!!!』
そしてハイタッチで喜び合うのだった。
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