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第195話 ギルドでのお約束

セルフィア王国王都の冒険者ギルドの大きな扉が開かれショートヘアーでブロンド髪の可愛らしい女の子が入って来る。赤色と銀色の真新しい胸当が印象的で新人冒険者のようにも見える出立ちであった。


ギルド内の冒険者達は女の子の姿を見て知る者は目を背け、知らずに物珍しく目で追う者、嘲笑う者とさまざまであった。


「ふん・・・ありぁ・・新人か?へっ!一丁前な装備してらぁ!」


「ば、馬鹿!!聞こえるぞ!お、お前知らねえのか?!あの方はエルバンス侯爵令嬢のサーシャ様だぞ?!噂じゃあ時々焦げ付いた高ランクの依頼を片付けているんだ!!」


「はぁ?!あんな小娘がか?!」


「馬鹿!!声が大きいんだよ!確かに形は女の子だが実力はべらぼうなんだよ!!ここでお前みたいに軽口を叩いた奴が・・・」


「お嬢ちゃーーん?こんな所で遊んでたら危ないでちゅよーー?」


冒険者の男が言葉を続けようとすると、それを遮るように大きな斧を背中に背負った半裸の大男がサーシャの前に立ちはだかる。


(お、おい・・あいつは見ない顔だな?)


(はぁ?!本当にお前は何も知らないな?!あいつは中央都市アグランダ帝国のAランク冒険者ギルガンドだ!〈豪剣の激震〉のリーダーだよ!!)


(えぇ?!あのクソ野郎って噂の?!な、なんでこんな所にいるんだよ?!)


(知らねぇよ。大方儲け話でも嗅ぎつけて来たんだろうぜ・・・)


実のところセルフィア王国で起こったスタンピードは各国の興味を引いていた。この世界では滅多に見られる事のないドラゴニュートやコカトリスの報告と討伐。そしてその素材の希少さ。各国から選りすぐりの強者がセルフィア王国王都に集まっていた。


「おじさん邪魔よ。何回も死にたく無かったらそこを退いて。」


サーシャは淡々と立ちはだかった大男を見上げる。サーシャは敢えて神力を表に出さずに大男を挑発する。


「はんっ!威勢だけはいいでちゅねぇーー!ここを通りたかったらこの俺様!〈豪剣の激震〉のリーダー!ギルガンド様と遊んでから行くんだなぁぁ!!くっ!!あーーっはっはっはーー!!」


ギルガンドの態度にサーシャのこめかみが全力で震える。


「やめなさい!!ギルド内でのトラブルは御法度よ!!」


ギルドの受付けカウンターから気の強そうな眼鏡を掛けた女性が出て来る。しかしギルガンドは一瞥し鼻で笑う。


「はん!俺はこのお嬢ちゃんと話してるだけだ!話が終わったらお前も可愛がってやるから待ってなぁ!!あーっはっはっは!!!」


受付けの女性のこめかみに青筋が刻まれる・・・


「ふん!どうなっても知りませんからね!」


受け付けの女性はサーシャの目線を送りギルドの奥へと消えて行った。


(・・・あいつ死んだな・・・いい機会だ。よく見ておけよ・・・)


(はぁ?!助けなくて良いのかよ?!死んじまうぞ?!)


(黙って見てろ!死ぬのがどっちなのかを・・)


他の冒険者達も興味津々で様子を伺っている。


「ふぅ・・・お父様からあまり問題を起こすなと言われているからもう一度チャンスをあげるわ・・・」


「あん?」


サーシャは怒りを落ち着けるように息を吐きギルガンドを見据える・・・


「・・・そこの木偶の坊!!死にたく無かったらさっさとそこを退いて!!」


「何だとぉぉ?!はん!言うじゃねぇーか!!乳しか取り柄のないちんちくりんのお前が、このAランク冒険者ギルガンド様を殺す?よおぉし!!良いだろう!一丁もんでやろう!くくくっ・・・そのおっぱいをなぁぁぁ!!あーーっはっはっはっは!!」


「ひゅうーー!いいぞギルガンド!!今日のおもちゃが出来たなぁぁ!!」


「俺にも貸してくれよぉぉぉーー」


ギルガンドのパーティメンバーの男二人も調子に乗って立ち上がりサーシャの背後に立つ。そしていやらしく舐め回すような目でサーシャを見下ろした。


(お、おい・・やばいぞ・・・離れるんだ・・・)


(な、何でだよ?!)


ざざざぁぁぁ・・・


(えっ?!あ?)


男が辺りを見渡すとサーシャの事を知る者達が潮が引くようにサーシャから遠ざかり部屋の隅に移動し始める・・・本来ならギルドから出る方が安全だが怖い物見たさであった。


サーシャの肩が怒りで小刻みに揺れる・・・


「くくくっ・・・お嬢ちゃん?震えてるのかなぁぁ?所詮はガキだなぁ?くくくっ・・今日は楽しませて貰うぜぇぇ?へっへっへぇぇ・・・」


「それじゃあ・・・早速・・・」


背後にいる仲間の一人がサーシャを捕まえようと両手を広げて近付く・・・


「・・・チャンスはあげたわよ・・・」


「何?今なんて・・・」


(おい!そこに居ると危ない・・・)


(へっ?!)


サーシャは一瞬で神力を纏い振り向き様に男の溝尾に放つ!!


「このぉぉ!!変態!!」


ずどぉぉぉぉぉ!!


「ぐべぇぇぇぇぇぇぇ」


「へっ?」

「はっ?」


二人の男は目の前からサーシャと仲間の男が消えて状況が分からず呆けた声を上げる。


男は身体をくの字に曲げ胃の中の物を撒き散らしながら訳も分からず立ち尽くしていた冒険者の男に向かって吹き飛ぶ!!


「うえぇぇぇ!!!あぶねぇぇ!!!」


男が間一髪床に滑り込み躱すと吹き飛ばされた男はギルドの壁を突き破る!!


どばきゃぁぁ!!


しかしそれでは終わらない。サーシャ吹き飛ぶ男を追いかけ先回りする!!


「まだまだぁぁ!!はりゃぁぁぁ!!」


サーシャはくの字になった男の腰を背後から更に蹴り飛ばす!!


べきゃぁぁぁぁぁ!!


「ごばぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


今度は仰け反りながら男がギルドの壁を外から突き破る!!


ばきゃぁぁぁ!!!


「えぶぅぅぅぅ・・・」


ががん!!どががが・・・・ごとん・・


そして男は冒険者達が座っていた場所のテーブルや椅子を薙ぎ倒し帰って来た・・・


恐る恐る冒険者達が覗くと白目を剥き手足があらぬ方向に曲がった男の姿があった・・・


「馬鹿な奴等だ・・・」


「お、おい・・・な、何なんだよあれは・・・人間技じゃねぇーだろ!!」


「馬鹿!!そこは危ねぇって言ってるだろう!!」


「へっ?」


どばきゃぁぁぁぁぁ!!!


冒険者の男が振り返るとまたもやくの字になった男が飛んで来る!!


「のあぁぁぁぁぁ!!またかぁぁぁぁ!!」


またもやギリギリで躱すと何かが目の前を疾風の如く通り過ぎる。


ばびゅん!!


「へはっ?!」


サーシャは目にも止まらぬ速さでくの字になった男の背後に周りそのまま男の尻を蹴り上げる!!


「どりぁぁぁぁぁ!!変態は死ね!!」


どごぉぉぉぉぉぉん!!


「ぶべぇぇぇぇぇ!!」


どがんっ!!!


「がふっ・・・」


男は分厚いギルドの屋根に頭から激突し落ちる事なくぶらぶらとぶら下がる・・・


「あ、あいつ・・・生きてるのか・・・?」


「さあな・・・でもこれで分かっただろう・・・?あれでも相手が人間だから手加減をしているんだ。お前もああなりたくなかったらサーシャ様を軽く見るんじゃねーぞ?」


「お、おう・・・」


冒険者達は天井からぶら下がる男を見上げると背筋に冷たい物が伝うのであった。



ギルガンドは目の前であっという間に仲間二人が吹き飛ばされボロ雑巾のように転がる仲間の男に目をやる。


「な、何が・・起こってやがる・・・あ、あの小娘・・・い、一体何なんだ・・・」


ざざっ!!


ギルガンドが気持ち悪い汗を垂らしながら後退るといつの間にか次はお前だと言わんばかりにサーシャが目の前に現れる。


「うへっ?!」


「ふふっ・・お待ちどうさま・・・ここを通りたかったらあんたと遊べばいいのよねぇ?」


「あ・・ぐっ・・・」


サーシャは斜に構え最後の仕上げに取り掛かろうとニヤリと笑う。しかしギルドの奥から慌てふためく足音が近付いて来る。


「こ、これは・・・サーシャ様!!どうされましたか?!」


奥から出て来たのは白髪混じりの短髪で服の上からでも分かる程の筋骨隆々の男であった。男はギルドの惨状に頬が引き攣る。


「あっ!!ギルマス!!どうしたもこうしたもないわ!この変態木偶の坊がこのか弱い私を襲ったのよ!!だから必死で抵抗したの・・・正当防衛よ・・・私・・私・・・怖かったのーーー!」


サーシャが両腕を後ろに回し身体を捩ると悲しい顔を作り上目遣いでギルドマスターの男を見上げた。


がたたたっ・・・・がたんっ!!!


部屋の隅で惨劇を見ていた冒険者達が思わずコケた・・・


(((嘘つけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!)))


その場に居たギルガンドを含めた冒険者全員の心の声が揃うのだった・・・



ギルドマスターが気を取り直しギルガンドを睨む。


「馬鹿が・・ギルガンド・・・貴様そこら中でやらかしてるらしいな?ふん!ギリギリAランクで調子に乗るなよ?修理代は貴様等に請求するからな!!覚悟しておけよ?!」


「えあっ?!な、何で俺が?!」


「黙れ!お前が発端だろうが!!それに貴様は誰にちょっかい掛けたと思ってるんだ?」


「・・・はっ?こ、この小娘がなんだってんだよ?!」


ギルドマスターがツカツカとサーシャの隣に立つ。


「ふん!馬鹿が・・・いいか?!この方はな、セルバイヤ王国国王陛下がお認めになった我ギルド最大戦力!SSランク冒険者!エルバンス侯爵令嬢サーシャ様だ!」


サーシャは紹介されると両手を腰に添えて胸を張る。


「ふんすっ!」


「はぁぁぁ?!じゃ、じゃあ・・・こ、この小娘が・・・あ、あの噂の・・・傍若無人の破壊兵器・・・爆拳サーシャ?!」


「はっ?!何?!その二つ名は・・・」


サーシャの眉間に皺を寄せて口を開こうとするとギルドマスターがずいっと一歩前に出る。


「はん!その通り!!この方こそ!その歩みを止めようとするものは何であろうと破壊粉砕!!思うがままにに突き進む!!傍若無人の破壊兵器!!爆拳サーシャ様だ!!」


(・・・うぅっ・・い、いつの間にそんな二つ名が付いていたの?!こんな二つ名がミハエル君に知れたら・・・は、恥ずかし過ぎる・・・)


ギルドマスターがドヤ顔でサーシャを見るとジト目で見上げるサーシャと目が合う・・・


「・・・ギルマス・・・後で話があるわ・・・」


「えぇ?!」


サーシャの迫力にギルドマスターの背中に寒気を感じるのだった。



ギルガンドは目を見開きサーシャを見下ろす。そして少しずつ自分がしでかした事に気づき後退る・・


「・・・お、俺は・・・こ、侯爵令嬢に・・・や、やらかした・・・げげっ!!」


「ふふっ。そーいう事よ。やっと自分がしでかした事に気付いた?


サーシャは悪い笑みを浮かべながらギルガンドに歩み寄る。ギルガンドは無意識に後退り受付けカウンターに背中をぶつける。


どんっ・・・


「あ・・・うぐっ・・・」


「ふっふっふーー。さあーーどーしよーかなーー・・・お父様に言って不敬罪で断頭台?絞首刑?それとも・・・」


しかしサーシャはそう言いながらもその気は無かった。サーシャ自身が貴族という身分を振りかざす事が好きでは無いのだ。その姿勢が貴族らしく無いと言われる要因あるとも言えるのだ。


「ひ、ひぃ!!」


ギルガンドは慌てて飛び退き両膝を床に付くと同時に額も床に擦り付ける。


ずざざっ!!


「し、し、失礼致しましたぁぁぁぁぁ!!!こ、侯爵令嬢様とは露知らず・・・お、お許しくださいぃぃぃぃぃ!!!!」


サーシャは先程とは態度を一変させるギルガンドを見下ろす・・・


「はぁ・・・仕方ないわね・・・この程度で死ぬのも馬鹿らしいわよね・・・」


「えっ?!じゃ、じゃあ・・・」


サーシャの言葉にギルガンドが助かったと顔を上げるとそこには拳を構えるサーシャの姿があった・・・


「えあっ?!」


「仕方ないから・・・これで許してあげるわ!!!・・・ふんはぁぁぁ!!」


顔を上げたギルガンドの顔面にサーシャの拳がめり込む・・・


ずがぁぁぁぁん!!!


「ふべぇぇぇぇぇ!!!」


どがぁぁぁぁん・・・


ギルガンドは吹き飛びギルドの壁を破壊して意識を失った・・・


「ふん!」


(・・・あぁ・・・また修理しなくては・・・いつの日かこのギルドが吹き飛ぶ時が来るかもな・・・)


ギルドマスターは壁の穴を向こう側を遠い目で見るのであった。

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